ここフランスで人気を博している日本のものといえば、日本食、マンガ、アニメ、茶道、華道、柔道など切がないが、実は美容業界においても日本発祥の技術が注目されている。「KOBIDO(古美道)」と呼ばれるフェイシャルマッサージである。
現在、ざっと数えただけでも、パリで「KOBIDO」を売りにしているサロンはラグジュアリーホテルや個人経営を含めて60店舗以上に及ぶ。欧州における「KOBIDO(古美道)」ブームは2000年代以降に始まり、パリにおいて近年、その人気が急上昇している。
「KOBIDO」は巧みに欧州における自然派志向のトレンドに乗り、特に、美容意識の高い層に支持されるようになった。フランスでは2010年代以降、「KOBIDO」がリフトアップやアンチエイジングに効果的な美容法として着目されるようになり、パリの高級サロンやホテルで導入が進んだ。
さらに、新型コロナ・パンデミックの余波を受けてセルフマッサージやフェイスヨガがブームとなった2020年頃には、ナチュラルな美容法への関心がいっそう高まりを見せ、「KOBIDO」人気が再燃した。「KOBIDO」は今日、美容とリラクゼーションを組み合わせた高級感に満ちた施術として高く評価されている。
古美道の歴史
「KOBIDO(古美道)」の歴史は600年以上も前に遡ると言われている。この技法はかつて、貴族階級や武士階級の間で行われていた美容法に由来する。
指先や手のひらを使って顔の筋肉やリンパ、経絡(体内のエネルギーの流れを示すライン)を刺激し、血行を促進させることで、肌のハリやツヤを取り戻す効果が見とめられている。顔の経絡やツボを活性化させることで自然治癒力を高め、身体全体のバランスを調える。戦に明け暮れる武士たちの間では、戦いの疲れを癒やすリラクゼーション法として重宝されたらしい。
「KOBIDO(古美道)」は20世紀に入り、徐々に海外にも広まり始めていく。
古美道の特徴
「KOBIDO(古美道)」の手の動かし方はきわめて繊細で、多彩な技術の集積とも言えよう。その基本は指先を使い、肌に対して圧をかけず、きめ細かくタッチしながらリズミカルに動かすことである。こうすることで顔の表面だけでなく、皮膚の下にある筋肉にも働きかけ、顔全体の引き締めやリフトアップ効果が期待できる。手のひらや指先を使ったリズミカルなストロークが特徴で、筋肉や皮膚に均等に適度な圧を与え、リンパの流れを改善し、老廃物の排出を促すことにより、顔のむくみやくすみを改善する。
「KOBIDO」には、指先で顔の肌を軽くたたくタッピングと呼ばれる技法もある。タッピングは血行を促進し、肌にハリと弾力をもたらすとともにリラックス効果も得られる。経絡やツボを押すことでエネルギーの流れを調えることもできる。全体的に滑らかで流れるような手技で、余計な力を加えず、顔の自然なラインに沿って手を動かし、リラックスした状態を保ちながら筋肉をほぐしていく。
顔全体のバランスを調えることで健康と美を引き出す包括的なフェイシャルケアが「KOBIDO」なのである。
日本の伝統と高級感を強調
欧州では一般的に、日本の伝統や文化は「エキゾチック」で、「高級」だと思われている。なかでもフランス人は、文化的背景や歴史に根ざした製品やサービスに強く惹かれる国民性が色濃いためか、「KOBIDO」が持つ「日本の伝統的な技術」というところに強い関心を抱き、そのことが大きな成功をもたらしたと言えるだろう。600年以上もの間、貴族や武家たちが積極的に取り入れてきた美容法という歴史事実をブランドストーリーとして織り込み、消費者に「特別な体験」を提供してきたことが奏功したものと思われる。
ナチュラル志向とオーガニックトレンドへの適合
近年、欧州でも「自然派志向」、「オーガニック」といった言葉がもてはやされ、こうした言葉を想起させる製品への関心が高まっている。「KOBIDO」は道具を一切用いることなく手技のみの施術であることから、化学成分を使用しない「自然派の美容法」として関心を集めている。素肌や筋肉に優しく、自然の治癒力を高めるという特徴が強調され、健康志向の高い消費者層を刺激している。
高級サロンやホテルとの提携
今日、「KOBIDO」は、パリを中心に数多くの高級サロンやホテルスパでも提供されるようになった。フォーシーズンズホテルなど一流ホテルとの連携が進んだことは、「特別でぜいたくなもの」としての認知を広めたのみならず、信頼性やブランドの向上にも一役買っていることは言うまでもない。
インフルエンサーやメディアの活用
フランスの美容業界において、有名なエステティシャンやセレブリティが「KOBIDO(古美道)」を絶賛している。雑誌やメディアで取り上げられることも目に見えて増え、「Vogue」や「Elle」といった高級美容誌で紹介されたことは、その地位を一気に引き上げた。
発祥の地、日本ではなぜかあまり知られていない「KOBIDO(古美道)」だが、フランスにおいて見事にローカライズに成功し、花開いた。
日本独自の技術や製品、サービスの中にも、欧州ではまだまだ知られていないものは山とある。「KOBIDO(古美道)」の成功例に学び、たしかな戦略と実行をもって挑戦すれば、チャンスは大いに広がるのではないだろうか。
内田 アルヴァレズ 絢(うちだ・アルヴァレズ・あや)
マーケティングコンサルタント(フランス)
神戸松陰女子学院大学英文科卒、Aix Marseille IIIにてフランス語を学ぶ。
ドイツ及びフランスで15年にわたりキャリアを積み、現在はパリを拠点に日系企業の欧州展開を多角的にサポートしている。
Researching Plus GmbH社のマーケティングリサーチャー&企業コーディネータも務める。