欧州のエコシステムは世界トップを目指している?

2017年、”I want France to be a Startup Nation.”というスローガンのもと、マクロン大統領がフランスをテクノロジーハブにすることを宣言して以来、フランスのエコシステムは政府主導で発展してきた。

パリはフランスのスタートアップ・シーンを席巻し、一貫して欧州をリードしている。
パリにはすでに8,000を超えるスタートアップが存在し、世界最大のスタートアップ・キャンパスと目されるStation Fもある。
さらに、研究開発の主要拠点として知られる「パリ・サクレー・キャンパス」には、欧州でもっとも多くの研究者が集い、日々研究・開発に勤しんでいる。

フランスは、マクロン大統領が掲げた「2025年までにユニコーン25社」を創出するという目標を3年前倒して成就した。これまでのところ、計画的なエコシステムの発展は順調に進んでいるようである。
筆者の肌感覚としても、フランスのスタートアップシーンは確実に盛り上がりを見せており、Brexit以降、ロンドンではなくパリを選択する企業が増えていると聞き及んでいる。とはいえ、依然としてロンドンがエコシステムのハブであることに異を唱える人はいないようでもある。

2022年のグローバルエコシステム・ランキングを見てみると、1位はシリコンバレー、2位がニューヨークとロンドン、4位ボストン、5位北京と推移し、パリは15位、ベルリン16位に留まっている。
https://startupgenome.com/ja-JP/article/global-startup-ecosystem-ranking-2022-top-30-plus-runners-up

パリ、ベルリンといった欧州の大都市が上位にランクインしていないのはどうしてだろうか?
これらの都市はいまだ成長段階にあるということを意味しているのだろうか。
スタートアップ・エコシステムの進化は、複雑かつ多面的なプロセスであると言える。それはあたかも、自然界における生態系のように、異なる段階を経て進化を遂げるものであり、欧州エコシステムが成長段階にあるかどうかは不明と言わざるを得ないと筆者は考えている。

先日、パリでRouteXの塚尾昌浩氏のセミナーを聴講する機会を得たのだが、そこで耳にしたことがヒントになるかもしれない。

まず、欧州においては、消費者のビジョンが中央政府によって規制されているという現実がある。
米国を含め、欧州以外の国・地域においては、初めにサービスが世に出る。規制が出てくるのはその後だ。
これに対し、欧州では、規制のほうが先に作られるのが一般的で、かかる規則に適合するかたちで、後からサービスが生み出される。
欧州ではすなわち、将来のビジョンはまずもって政府機関が決定し、そのフレームの中で新たなイノベーションが創造されるという構図なのである。

例えば、米国テクノロジー企業の雄、GoogleやFacebookのような企業にたびたび見られることとして、彼らが真っ先にイノベーションを巻き起こし、その後に規制が被せられる例が圧倒的に多い。プライバシー保護やデータ収集に関する規則などは最たる事例と言えるだろう。

欧州においては、厳格な規制・規則がイノベーションの足かせになると唱える向きも少なくない。
しかし一方では、欧州が持つ「国際基準を制定する力」、ブリュッセル効果を巧みに利用し、規制を自主的に遵守することが統合された一つの方向性を指し示す役割を果たし、普遍的なイノベーションを起こしやすくしているという指摘もある。

日本と欧州の消費者意識の違いも見逃せないだろう。
日本の場合、ハンバーガー店を利用する消費者は、値段が安い、遅くまで営業していて便利だといった理由で利用する向きが多い。
他方、フランスの消費者は、ハンバーガーに使われる卵が平飼いか、店の労働環境が良好かといった点までも当たり前のように考慮する。フランスにかぎったことではない。一般的に、欧州の消費者は環境に対する配慮や意識がきわめて高く、日本人の比ではない。彼らにとって、サステナビリティは何ら特別なことではなく、日常生活と密着しているのである。

欧州ならではの規制・規則が統一市場や資金の流れを円滑にし、促進しているという一面もある。
成功例として、フィンテックのTransferWise(現Wise)を挙げることができる。特に、支払いサービス指令(Payment Service Directive)は利用者に大きな利益をもたらしたと言えよう。この指令により送金手数料が大幅に削減され、透明性の高いサービスを提供することが可能となった結果、Wiseの利用者が急増し、一気に存在感を高めたと言ってよい。

投資においても、欧州では他の地域よりも社会的責任やサステナビリティを重視したものが多く見られ、米国やアジア諸国にはない特異性を示している。
欧州委員会が提唱した「欧州グリーンディール計画」にもとづき、再生可能エネルギーへの投資が増えつづけている事例などは、欧州ならでは規制が功を奏していることの好例であろう。
European Investment Bank (EIB): https://www.eib.org/
U.S. Small Business Administration (SBA): https://www.sba.gov/

執筆者 内田 アルヴァレズ 絢(うちだ・アルヴァレズ・あや)

マーケティングコンサルタント(フランス)

神戸松陰女子学院大学英文科卒、Aix Marseille IIIにてフランス語を学ぶ。
ドイツ及びフランスで15年にわたりキャリアを積み、現在はパリを拠点に日系企業の欧州展開を多角的にサポートしている。
Researching Plus GmbH社のマーケティングリサーチャー&企業コーディネータも務める。

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
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