フランスの外国投資誘致政策
ヨーロッパへの外国投資は減少も、フランスは健闘
終わりの見えないウクライナ紛争、エネルギー危機、EU加盟国間の不協和音、社会不安、インフレ等々、ヨーロッパに対する外国直接投資(Foreign Direct Investment; FDI)の誘致政策は2022年、深刻な打撃を受けた。
実際、ヨーロッパ44か国内に事業拠点を構えるを非ヨーロッパ企業の拠点数は、対前年比わずか1%増に留まったうえ、いっそう深刻なのは、これら非ヨーロッパ企業が生み出す雇用が16%も減少したことである。
そのような中、フランスは突出した存在感を示していると言うことができる。
EYストラテジー・アンド・コンサルティングの調査によれば、FDI先ランキングでフランスが4年連続の首位となり、1,259件の新規プロジェクトを獲得することに成功した。この数字は対前年(2021年)比3%増である。
なお、現在、フランス国内に展開している外資系企業は16,800社で、全体の1%に過ぎないが、彼らが生み出す雇用は220万人と給与所得者の13%を占め、GDPの約20%、民間研究・開発の25%、産業輸出の35%を創出している。
フランスは近年、歴史的なライバルとされる英国(929件、6%減)、ドイツ(832件、1%減)との差を広げている。
フランスは今日、研究開発投資の主要な受け入れ国となっており、第三次産業の躍動拠点と化している。外国人投資家204名に実施したアンケート調査では、65%の投資家がフランスは他のヨーロッパ諸国のどこよりも魅力的な国であると回答している。
5月に開催された6年目の”Choose France”
Choose Franceとは、マクロン大統領が始めた外国人投資家の招待イベントで、過去5回、今年は5月15日にヴェルサイユ宮殿で開催され、過去最高の総額130億ユーロのプロジェクトが成立した。
招待されたのはおよそ400人で、うち206人が多国籍企業の経営者だった。うちヨーロッパ国籍が半数、北米20%、アジア15%であり、日系企業7社も含まれている。
公表されたプロジェクトのなかで最大規模のものは、フランス北部ダンケルクに台湾企業プロロジウムが新世代バッテリーのギガファクトリーを建設するというもので、投資額52億ユーロ、3,000人の雇用創出を見込むというものである。建設は2024年に開始、2030年までに3,000人の直接雇用と12,000人の間接雇用が生まれるとされる。
ダンケルクではこれ以外にも、中国企業とルノーが提携するバッテリー工場、Total EnergiesとStellantisの合併によるバッテリー製造工場が建設中であるほか、中国XTCとフランスOranoが15億ユーロを共同出資するかたちでバッテリー部品のリサイクル工場が建設される計画もあり、同市はいまや「バッテリーバレー」の様相を呈している。
ただし、国連貿易開発会議(UNCTAD)が2021年に公表したとおり、フランスは投資数ではトップを走っているが、投資額では140億ドル(ヨーロッパ内6位)に留まっており、産業の育成、教育の促進、財政・金融政策の規制緩和、法整備など、これまで以上の柔軟性と対応力が求められることもまた事実である。
フランスの改善点
フランスが抱える問題点の筆頭は人件費が高いことである。ゆえに、新規事業の呼び込みはなかなか上手く行っておらず、誘致の65%は既存プロジェクトの拡大に終始している。対して、ドイツ及び英国では3分の2が新規であり、差は大きい。
未来型成長分野への挑戦
フランスは低炭素産業、エネルギー、健康、イノベーションなどの分野でヨーロッパをリードすべく挑戦を続けている。
エレクトロニクス、とりわけ、戦略性が高いとされる半導体分野において、フランスは現在進行中のの投資ダイナミズムの恩恵を受けており、中国や台湾などへの依存を抑えることができるのではないかと取り沙汰されている。グルノーブル近郊クロールにフランス、イタリア、米国の実業家が60億ユーロを投じ、半導体生産に特化した新工場が建設される予定だ。
ありとあらゆる産業分野において、ヨーロッパ最大の投資先となることを目指すフランスの挑戦はこれからも続く。
内田 アルヴァレズ 絢(うちだ・アルヴァレズ・あや)
マーケティングコンサルタント(フランス)
神戸松陰女子学院大学英文科卒、Aix Marseille IIIにてフランス語を学ぶ。
ドイツ及びフランスで15年にわたりキャリアを積み、現在はパリを拠点に日系企業の欧州展開を多角的にサポートしている。
Researching Plus GmbH社のマーケティングリサーチャー&企業コーディネータも務める。