アメリカで注目の企業・Yコンビネーターとは?


Dropbox、Airbnb、reddit、Heroku等の有望ベンチャー企業を続々輩出、世界中のベンチャー投資家にその名を知られるYコンビネーターは、シードファンディング専門のアクセラレーターです。Yコンビネーターはどのようなスタートアップ企業にどのように投資しているのか、そのあらましを紹介します。

Yコンビネーターとは何か?

 Yコンビネーター(Y Combinator)は、シリコンバレーに拠点を置くシードファンディング専門のアクセラレーターです。アメリカのベンチャー投資では、スタートアップ企業、投資家、アクセラレーターの三つのプレーヤーが存在します。アクセラレーターは投資家に代わってスタートアップ企業を選別し、ビジネスを発芽させ、次のフェーズでの成長が期待出来る大きさまで育てて投資家へ引き渡すのが仕事です。

 Yコンビネーターは2005年にポール・グラハム、ジェシカ・リビングストンら四人の起業家が共同で設立しました。設立当初はマサチューセッツ州ケンブリッジとシリコンバレーの二か所で活動していましたが、2009年からシリコンバレーを拠点にしています。同年にAppleやGoogleに投資した著名ベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルがYコンビネーターに200万ドル投資し、活動が本格化しました。Yコンビネーターは2005年の設立以来、今日までに1,464社のスタートアップ企業に投資し、投資した企業の合計時価総額を800億ドル(約8兆8千億円)にまで拡大させています。

Yコンビネーターの投資の仕組み

 Yコンビネーターは、100社程度のスタートアップ企業をまとめたバッチへ、夏と冬の年2回、1社につき12万ドル(約1,320万円)を投資しています。投資の見返りとしてスタートアップ企業は7%のエクイティをYコンビネーターへ付与します。登記手続きや株主総会などのプロセスを避けるため、エクイティはエクイティそのものではなく、転換権付きローンで付与されます。

 出資を受けたスタートアップ企業はシリコンバレーへ拠点を移し、サイクルと呼ばれる三ヶ月間のプログラムに参加します。プログラムではYコンビネーターのスタッフによる経営アドバイスを受けられる他、著名な起業家や投資家を招いてのウィークリーディナーなども開催されます。

 プログラムを通じてYコンビネーターはあらゆる助言や指導を行い、スタートアップ企業を「最高の形へ仕立て上げます」。プログラムの最終日はデモ・デイで、世界中から招待された投資家に対し、スタートアップ企業による2分30秒のプレゼンが行われます。スタートアップ企業と投資家の間で新たなラウンドの投資が決定すると、Yコンビネーターはエクイティを現金化してエクジットします。

 Yコンビネーターからの投資を希望するスタートアップ企業はYコンビネーターのウェブサイトで情報を入力し、オンラインで申し込みます。Yコンビネーターは情報をもとに審査し、経営者へインタビューなどを行います。審査を通過した企業は次のバッチへ組み込まれ、投資が行われます。

Yコンビネーターはどのような企業に投資するのか?

 シリコンバレーという土地柄から、Yコンビネーターが投資する企業の多くはITやWeb関連のスタートアップ企業と思われがちです。しかし、Yコンビネーターの投資先はハードウェア、フィンテック、バイオテック、ライドシェアリング、ロボティクス、核融合テクノロジー、マーケットプレース、エドテック、ケータリング、宅配サービス、ドローン、モバイルゲーム、クラウドソーシングと、非常に多岐に渡っています。

 しかし、いずれの企業にも共通点があります。それは、いずれも将来的な市場拡大が見込めることとビジネスアイデアが斬新であること、そしてYコンビネーターのモットーである”Make something people want”(人々が欲しがるものを作れ)を満たしていることです。

 投資の申請を行うYコンビネーターのオンラインフォームでは、最初に「あなたの会社は何を作ろうとしていますか?」という質問が出されます。Yコンビネーターは、この質問に明確に答えられることが審査を突破する条件だと説明しています。

日本にも求められる本格的アクセラレーター

 Yコンビネーターは、スタートアップ企業のシードファンディングに特化したアクセラレーターという無二の存在です。設立から今日までにAirBnB、Dropbox、redditといった今を時めくベンチャー企業を世に送り出した功績は大きいと言えるでしょう。

 一方、日本はどうでしょうか。日本でもスタートアップ企業に少額出資してハンズオンでインキュベーションを行う企業は存在します。しかし、Yコンビネーターのような大きなスケールで、本格的に行っている企業は、筆者の知る限り存在しません。

 日本のスタートアップ企業のほとんどは、事業立上げのシード資金を創業者の自己資金で賄っています。融資してくれる金融機関もなく、投資してくれる投資家も少ない。Yコンビネーターが日本にあればどれだけ良いかとどうしても思わされてしまいます。

 今後の日本においてAirBnBやUberのような革新的なベンチャー企業を誕生させたいと願うのであれば、日本にもYコンビネーターのようなアクセラレーターが必要です。シードという、ベンチャー投資のプロセスでもっとも難しいフェーズで果敢に資金を供給するアクセラレーターが存在していなければ、いくら斬新なアイデアがあったとしても事業化することは極めて困難です。日本の次のビジネスを生み出すために、今こそ本格的なアクセラレーターが求められているのです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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