【アメリカ人の生活】アメリカ人の賃貸生活者の半数が「家賃支払いが困難」?

最新のアメリカ国勢調査の結果によると、2023年時点のアメリカでは1億900万人が賃貸住宅に居住しており、アメリカ全世帯の32%を占めているそうです。アメリカ人の約三分の一が賃貸生活者であるわけですが、近年の家賃高騰により家賃の支払いが困難になりつつある人が増加しています。アメリカの住宅の賃貸市場に何が起きているのか、現状をお伝えします。

地域によりばらつきがあるアメリカの賃貸生活者人口

ところで、アメリカの各州の人口に占める賃貸生活者の割合は、当然ながら地域によりばらつきがあります。人口が多い都市圏を抱える州では割合が高く、逆では低くなります。実際に賃貸生活者の割合が高い州はワシントンDC(58.9%)、ニューヨーク州(45.9%)、カリフォルニア州(44.2%)となっています。一方、低い州はウェストバージニア州(25.6%)、メーン州(25.9%)、デラウェア州(25.9%)となっています。人口の流動性が比較的高く、生産労働者人口が多い都市部で賃貸生活者が多い現状が見てとれます。

アメリカ国勢調査の結果をもとにすると、アメリカの平均的な賃貸生活者は年齢39歳の独身者で、四年制大学を卒業して年収42,500ドル(約658万円)を稼いでいます。住まいの平均的な間取りは2ベッドルーム・1.5バスルームの、広さ999平方フィート(約92.81平方メートル)のアパートメントです。また、多くが家主と12カ月間の賃貸借契約を結んでおり、カリフォルニア州に居住している場合、平均で月額2900ドル(約44万9500円)の家賃を支払っています(なお、カリフォルニア州での平均年収は全米平均より高い可能性があります)。

「家賃の支払いが困難」な賃貸生活者が増加

ところで、最近のアメリカでは「家賃の支払いが困難」な賃貸生活者が増加しています。ハーバード大学が今年2024年1月に発表した調査結果によると、アメリカの賃貸生活者世帯の約半数が世帯収入の30%以上を家賃支払いに費やしており、家賃の支払いが困難であると回答したそうです。特に、世帯収入年間3万ドル(約465万円)以下の低所得世帯の家計は非常に厳しく、家賃を支払った後に手元に残る現金は、わずかに310ドル(約4万8050円)しかないそうです。

 調査を行ったハーバード大学のエアグッド・オブリッキ上席研究員によると、今回の調査結果は、1000万人のアメリカ人が自宅を失ったとされる2008年の大不況(日本で言うリーマンショック)の時よりも状況が悪いそうです。この問題がこのまま放置されると、家賃を支払えない人が増加し、ホームレスに陥るケースが続出すると警鐘を鳴らしています。

アメリカで家賃が値上がりする理由

では、なぜ多くの賃貸生活者が家賃支払いが困難であると感じる水準にまで家賃が値上がりしているのでしょうか。家賃が値上がりする理由は通常複合的で、ひとつに限定されないのが一般的です。それでも、主たる理由とされる要因はいくつか考えられます。

まず挙げられるべきは住宅の建設コストとメンテナンスコストの上昇です。アメリカでは都市部を中心に住宅不足が社会問題化しており、特に安価で良質な住宅の供給が需要に追い付かない状況になっています。賃貸住宅も住宅の一部であり、住宅不足による建設コストとメンテナンスコストの上昇の影響を大きく受けます。

アメリカの大手メディアCBSは、過去10年間で四度も家賃を値上げされたコロラド州デンバーに住むシングルマザーが、家賃をきちんと支払っているにも関わらず、家主が破損したバスルームの天井を修理せずに放置している状況を嘆いている声を伝えています。家主にしてみても、修理コストが値上がりしたために修理したくてもできないという実態があるのかも知れません。

また、別の記事で紹介した住宅保険の値上がりや、固定資産税の増加、あるいは家賃延滞率の上昇などの要因も絡み合って家賃の上昇に拍車をかけています。筆者が見たところ、アメリカの賃貸住宅の家賃は、特に都市部においては、今後も値上がりのトレンドが当面続くものと予想しています。

家賃が支払えずにホームレスになる人も

前述のハーバード大学による調査によると、家賃の支払いができずにホームレスになる人が2023年1月時点で65万3000人存在し、対前年比で12%、2015年時点と比べて48%も増加したそうです。家賃が軒並み高騰を続ける中、家賃滞納で退去を余儀なくされ、住む家を失うアメリカ人が実際に増加しているのです。

アメリカでホームレスと言うと単身者のホームレスをイメージしがちですが、最近は単身者のホームレスに加えて、家族単位でホームレスになるケースが増加しているそうです。ホームレス支援団体ファミリー・ゲートウェイは、アメリカのホームレス人口の37%が家族単位でホームレスになった「ファミリーホームレス」であるとしていますが、家賃高騰のトレンドが続くと予想される今後、「ファミリーホームレス」の人口がさらに増加する可能性があります。アメリカにおける賃貸住宅の家賃高騰という問題は、アメリカ国民の最低限のウェルビーイング確保という、国家存立のための根本問題になりつつあるようです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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