【合衆国憲法修正第二条護持】NRAとはどういう団体か?

銃による乱射事件がコンスタントに発生する国アメリカ。アメリカ国内のマスシューティング(死亡した被害者4名以上の銃乱射事件)をモニタリングしているガン・バイオレンス・アーカイブ(Gun Violence Archive)によると、今年2023年10月末時点アメリカ国内で565件のマスシューティングが発生しており、昨年2022年分をすでに上回ったそうです。そして、マスシューティングが起こると大抵話題に上るのがNRAという団体です。今回は、このNRAという団体について解説します。

マスシューティングが起きると話題に上がる「NRA」

今年2023年10月25日、アメリカ・メーン州ルイストンでマスシューティングが発生し、18名が亡くなり13名が負傷する大惨事となりました。犯人は40歳のアメリカ陸軍予備役のロバート・カードで、CNNによると、家庭内でトラブルを起こすなど精神的な問題を抱えていたそうです。事件は、最終的には犯人自らが命を絶つという最悪の結末を迎えました。

CNNは、メーン州がアメリカで最も銃規制が緩い州のひとつであることを報道し、今回の事件をきっかけに、州内で銃規制を強化する声が高まる可能性があると報じています。一方、そうした銃規制の声が高まるごとに猛烈に反対する人たちがメディアにしばしば登場します。NRAという団体です。

もともとは「銃保有者たちの同好会」が始まり

NRA(The National Rifle Association of America)は、南北戦争終結から6年後の1871年11月17日に、北軍機関紙編集者のウィリアム・チャーチと、北軍陸軍大将のジョージ・ウィンゲートがニューヨークで組織した「銃保有者たちの同好会」に端を発する団体です。日本語では「全米ライフル協会」などと訳されますが、設立当初の設立目的は「ライフル射撃を普及させ、推奨すること」で、もともとはイギリスで先に設立されたイギリスのライフル協会と同様の組織として設立されました。

NRAは、設立当初は「射撃場の建設」「射撃技術向上のためのトレーニングの提供」などを行う、政治的な匂いがほとんどしない「同好会」として運営されていました。しかし、1875年ごろより国際射撃大会の開催を始めるなど国際的な活動を展開し始め、同時に全米各地に「ライフルクラブ」を設立、現在のNRAの支部の原型となる組織の立ち上げを開始しています。NRAのそうした動きは各州の州軍の関係者の関心を集め、NRAに州兵の射撃訓練を依頼するケースが増え、両者の関係が強まったのです。

強固な「政治団体化」したのは1977年から

「合衆国憲法修正第二条護持」を声高に叫び、あらゆる銃規制に反対する超強固な政治ロビーイング団体というイメージが強いNRAですが、今のような激しい政治団体化したのは、1977年にオハイオ州シンシナティで行われたNRAの年次総会で、NRA前代表のハーロン・カーターと、ロビイストのニール・ノックスが率いる会員集団が、NRAの定款変更を求める決議を発議した事件がきっかけとなったとされています。

後に「シンシナティ動乱」(The Revolt at Cincinnati)と呼ばれることになるその事件は、NRAの定款にアメリカ国民の「武器を所持・携行する権利」を記載させ、合衆国憲法第二条護持を強固に訴える形となったのです。シンシナティ動乱によりNRAの指導部は一掃され、カーターとニックスがそれぞれ新しい指導者に就任すると同時に、カーターとニックスを支持する強硬派メンバーが多数重職に就く形になりました。

カーター指導のもと、NRAは「合衆国憲法修正第二条護持」を「決して妥協しない」姿勢で貫き、賛同する多くのアメリカ人を呼び寄せる結果となりました。カーターがNRAを率いた1985年までの八年間で、NRAは会員数を120万人から400万人へと三倍以上に増やしています。

強固な姿勢が今も続くNRA

NRAは現在、カーターと同様に強硬路線を貫くウェイン・ラピエールが、1991年の就任以来率いています。ラピエールと言えば、数々の「迷言」で知られていて、特に2012年にコネティカット州ニュータウンで発生した「サンディフック小学校銃撃事件」に関しては、「銃を持った悪人を止めることができる唯一の方法は、銃を持った善人だけだ」とコメントし、社会に波紋を広げています。また、銃乱射事件から子供たちを守るために、すべての学校に武装した警察官を配置すべきと主張するなど、銃権利活動家としてその名をいよいよ高めています。

NRAは、2018年時点で550万人の会員を抱え、会員から年間4億1200万ドル(約618億円)もの資金を集め、銃権利護持を旨とする政治的活動を展開しています。潤沢な活動資金を元に、NRAは多くの大物政治家に献金などの名目で資金を提供しています。NRAから資金提供を受けている政治家には、アメリカ大統領候補のミット・ロムニー氏、共和党のマーコ・ルビオ氏、同じく共和党の上院議員ミッチ・マコーネル氏などの超大物政治家が含まれています。

政治家以外にも著名人のNRA会員は多く、女優のウーピー・ゴールドバーグ、俳優のブラッド・ピット、女優のデミ・ムーア、俳優で映画監督のクリント・イーストウッドなどもNRA会員です。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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