アメリカの低所得者層を救う「SNAP」という名の食料品購入支援プログラム

以前、「弱者切り捨て?アメリカに「生活保護制度」は存在するのか?」と言う記事で、アメリカの生活保護制度「SSI」についてご説明しました。「SSI」は日本の生活保護制度と比べて受給条件が厳しく、受け取れる額も少ないですが、一方で、アメリカには低所得者用食料品購入支援プログラムの「SNAP」という制度も存在しています。利用者がSSIよりもはるかに多いSNAPについて解説します。

長い歴史を持つ「フードスタンププログラム」

SNAPはSupplemental Nutrition Assistance Programの略で、直訳すると「補助的栄養支援プログラム」とでもなるでしょうか。かつてはフードスタンププログラム(Food Stamp Program)という制度名で、スーパーなどで食料が買える「フードスタンプ」が実際に配られていました。筆者がアメリカ・カリフォルニアの高校へ通っていたのはもう40年も前のことですが、筆者が部屋を間借りしていたお宅のシングルマザーのユダヤ人の女性が、「これがあればお店で食べ物が買えるのよ」と本物のフードスタンプを見せてくれたのを今でもよく憶えています。また、当時のスーパーのレジの現金入れには、ほぼ100%の確率でフードスタンプが現金と一緒に保管されていました。

フードスタンプの歴史は古く、1939年に当時のアメリカ農務大臣のヘンリー・ワレスらによって創設されたのが始まりとされています。始まった当初はオレンジ色の紙幣の形で配られていたフードスタンプは1ドルのバリューで、小売店で普通の1ドル紙幣と同じように使うことができたそうです。なお、現在のSNAPも、フードスタンププログラムの産みの親であるアメリカ農務省の管轄となっています。

アメリカ人の12.6%がSNAPを利用

そのSNAPですが、実際にどれくらいのアメリカ人が利用しているのでしょうか。アメリカ農務省によると、2022年11月時点で4200万人のアメリカ人がSNAPを利用しているそうです。実にアメリカ人の12.6%が利用している訳ですが、前にご紹介した生活保護制度のSSIの利用者数が相応に限定的なのに比べて、思いのほか多くのアメリカ人が利用しているようです。

なお、SNAPの受給率は州によってばらつきがあり、受給率が最も高い州がニューメキシコ州で、州人口の24.32%がSNAPを利用しているそうです。次いでルイジアナ州(19.5%)、ウェストバージニア州(18.2%)、オクラホマ州(17.2%)、オレゴン州(17.0%)と続いています。一方、アメリカでもっとも受給率が低いのがユタ州で、受給率わずか4.6%となっています。

気になる受給条件と受給額は?

ところで、SNAPの受給条件はどうなっているでしょうか。SNAPの受給条件は州によって違いますが、例えばカリフォルニア州の場合、連邦政府の定める貧困レベルの収入の200%以下となっています。所得制限は扶養家族の数によって違いますが、例えば3人家族(子供は21歳以下)の場合は3840ドル(約53万7600円)以下です。所得水準としては決して低くないと思われますが、カリフォルニア州では実際に人口の13.2%がSNAPを利用しています。

また、所得の金額とともに保有する資産もチェックされます。現金は当然のことながら、銀行預金も3001ドル(約42万円)を超えて保有することはできません。

実際の受給額ですが、主に受給者の所得の額と扶養家族の数によって決まります。カリフォルニア州の場合、3人家族で収入ゼロか連邦政府の定める貧困レベルの収入以下の場合、月額535ドル(約7万4900円)です。また、同じく3人家族で収入が連邦政府の定める貧困レベルの165%から200%の場合、月額382ドル(約5万3480円)です。ある程度の収入がある家庭にとっては一定の足しにはなるかもしれませんが、収入がゼロの家庭の場合、それだけでは生活するのは困難かも知れません。

かつてのフードスタンプはEBTカードへ

筆者にとっては非常に懐かしいフードスタンプですが、2000年代初頭までにEBT(Electronic Benefit Transfer)カードへ順次切り替えられ、今ではその姿を完全に消してしまっています。EBTカードは、SNAPを申請して受給が決定すると手渡される電磁カードで、デビットカードと同じ機能を持つものです。違いは、デビットカードが自分の銀行口座とリンクしている一方、EBTカードは自治体が管理する口座とリンクしており、現金などを引き出すことができない点です。SNAPの受給者は、毎月受給額相当の金額を専用口座で受け取る形になります。

なお、EBTカードでは、SNAPで購入が認められているものしか購入できません。肉、野菜、果物、スナックといった「一般的な食料品」などは購入できますが、アルコール飲料、タバコ、ビタミンなどのサプリメント類、ペットフード、トイレタリー製品などの「ぜいたく品」や「嗜好品」は購入できません。また、州によって認められた飲食店以外の飲食店での食事などにも利用できません。SNAPとは、文字通り「補助的栄養支援プログラム」であり、生きていくために必要な栄養を人々に摂らせることが最大の目的です。酒やたばこなどは無論のこと、レストランでの外食なども原則認めないとしているのもやむを得ないのかも知れません。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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