弱者切り捨て?アメリカに「生活保護制度」は存在するのか?

厚生労働省の発表によると、我が国の昨年1年間の生活保護の申請数はおよそ23万5000件で、2年連続の増加となりました。新型コロナウィルスの影響で収入が下がったり無くなったりして生活に困る人が増えているためですが、いざという時のセーフティネットとして生活保護制度は頼りになるものです。ところで、新型コロナの影響をより大きく受けているアメリカには、我が国のような生活保護制度は存在するのでしょうか。

「SSI」という名の「生活保護制度」

先に結論を書いておきますと、アメリカにも「生活保護制度」は存在します。「SSI」(Supplemental Security Income)という制度がそれです。SSIは、アメリカ連邦政府機関である社会保障局(Social Security Administration)が運営しているもので、アメリカ財務省の基礎基金、個人所得税、法人税およびその他の税を財源にしています。

社会保障局が運営している制度ではソーシャル・セキュリティ・ベネフィット(Social Security Benefit)が有名ですが、ソーシャル・セキュリティ・ベネフィットは制度としては年金であり、一定の年数以上保険料を納めた人が支給対象となります。一方、SSIは、保険料の納付の有無にかかわらず、受給条件を満たす人はすべて対象となります。ただし、日本以上に、受給条件は相当に厳しいものとなっています。

SSIの受給条件

では、具体的にSSIの受給条件は何でしょうか。社会保障局によると、SSIを受給するには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

■65歳以上であること
■完全に、または部分的に失明していること
■最低一年間、または最終的に死亡するまで労働することができない医療上の状況に置かれていること

また、当然ながらSSIを受給するには所得が一定以下である必要があります。所得には給与や年金などに加え、無料で受けた食事や宿泊施設などの「時価」も含める必要があります。なお、具体的に収入がどの程度であれば受給可能かについては、州ごとに規定が違うので、社会保障局は各州の社会保障事務所に確認するよう促しています。

いずれにせよ、SSIは65歳以上の高齢者か目の不自由な人、あるいは死にそうなくらい健康状態が悪い人や体の不自由な人以外は、子供を除いて、事実上受給できないようです。これは、「働ける健康な体を持った人は、頑張って働いて稼げ」と言っているように筆者には思えます。日本の生活保護制度と比べると、ずいぶんと厳しいようにも感じます。ちなみに、日本の生活保護の受給条件は、

■世帯収入が最低生活費である13万円より低い
■親族など支援してもらえる人がいない
■病気やケガなどで働けない
■貯金や不動産などの資産がない

となっていて、それぞれ個別に勘案して支給の有無を判断するとされています。

SSIで実際にもらえる額はいくら?

では、SSIで実際にもらえる額はいくらでしょうか。社会保障局によると、2022年度の基本支給額は一人当たり841ドル(9万6715円)、一カップルあたり1,261ドル(約14万5015円)です。なお、この金額に州ごとの上乗せ分があるようで、物価が高いニューヨーク州、マサチューセッツ州、カリフォルニア州、ハワイ州などでは相応分上乗せされます。例えば、カリフォルニア州の2020年度のSSI支給額は、一人当たり平均943.72ドル(約10万8528円)となっています。

世界的なエネルギー価格の上昇に伴うインフレの進行により、物価が高いカリフォルニア州などでは生活必需品の価格がさらに上昇しています。ロサンゼルスやサンフランシスコなどの家賃が高いエリアに住む単身世帯の人の場合、SSIだけで生活することはほぼ完全に不可能でしょう。地方に住む子連れのシングルマザーなどでないと、SSIはその機能を十分に果たせないように思います。

SSIはホームレスも利用可能、だけど

ところで、社会保障局は、ホームレスつまり特定の居住地がない人によるSSIの利用も可能だとしています。SSIの基本的な受給条件を満たした上での利用となりますが、その場合、ボランティアから食事やシェルターを提供されると(「善意によるサポートと生活維持」と称するそうです)、その分を「相応の対価」としてSSIの支給額から控除するとしています。一方で、レストランなどの飲食店が廃棄した客の食べ残しや、「相応の対価」が生じない無料の施設、例えば廃墟と化した建物に寝泊まりした場合などは「善意によるサポートと生活維持」には該当せず、SSIの支給額から控除しないとしています。

ホームレスに対する善意のサポートまで「相応の対価」として控除する仕組みに驚くばかりですが、同時に、社会的弱者に対するアメリカの厳しい一面を垣間見る気がします。社会的弱者を守るセーフティネットの仕組みや、それを支える国民的マインドは、アメリカよりも日本の方が優しいものであることは間違いなさそうです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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