アメリカを蝕む「オピオイド危機」とは何か?

アメリカでオピオイド危機が大きな社会問題になっています。オピオイドとは麻薬性鎮痛剤の総称ですが、オピオイドの過剰摂取による死亡者が激増し、2022年3月までの一年間で10万9,0000人もの人が亡くなっています。1999年からの累積死亡者数は93万2,000人に達し、その数は現在も増え続けています。アメリカを蝕むオピオイド危機について、その詳細をお伝えします。

オピオイドとは何か?

アメリカ薬物中毒研究所の定義によると、オピオイド(Opioid)とは、「フェンタニル」などの合成麻薬性鎮痛剤の総称で、合法的な処方薬の「オキシコンチン」「ヴィコジン」などを含むものです。オピオイドの中でも「フェンタニル」は、医療用鎮痛剤として使われる非常に強力な合成オピオイドで、全身麻酔あるいは局所麻酔における鎮痛や、がん性疼痛における中等度から強度の痛みに対して使われます。

「フェンタニル」の鎮痛効果は、静脈内投与した場合、モルヒネの50倍から100倍程度の強さとされています。ほとんど最強クラスのスーパーオピオイドと呼ぶべき薬ですが、今日のアメリカでは、この「フェンタニル」の過剰摂取により死亡する人が急増しているのです。

非合法のフェンタニルがアメリカで蔓延

フェンタニルはもともと、全身麻酔や手術後の鎮痛剤として使われている医療用麻薬です。しかし、現在アメリカで蔓延しているのは合法的に処方されたフェンタニルではなく、麻薬組織などが密造した非合法のフェンタニルなのです。非合法のフェンタニルは液剤、粉末、錠剤の形態で流通していて、都市部などのドラッグマーケットで売買されています。多くはヘロインやコカインなどとミックスした「ドラッグカクテル」として販売されています。中には最初から子供を狙い撃ちにした虹色の「レインボーフェンタニル」という、いかにも子供が好きそうなカラフルなものまで販売されています。

非合法のフェンタニルが危険なのは、中に入っている成分がわからない点です。アメリカ麻薬取締局によると、同局が押収した非合法フェンタニルの42%が、致死量とされる2ミリグラム以上のフェンタニルを含んでいたそうです。実際に非合法のフェンタニルを過剰摂取して死亡する人が激増し、2022年3月の時点で対前年比で55.6%も増加しています。

非合法のフェンタニルの最大の輸出国は?

では、アメリカに非合法のフェンタニルを輸出している最大の国はどこでしょうか。答は中国です。メリーランド州選出の下院議員デイヴィット・トローン氏によると、「アメリカに持ち込まれる非合法フェンタニルの99%は、原料が中国からメキシコへ輸出され、メキシコの2大カルテルであるジャリスコ・カルテルとシナロア・カルテルという巨大麻薬組織によって製造されている」と発言し、中国が非合法フェンタニルの原料の最大の産出国であると指摘し、供給源を断ち切る必要があると強調しています。

中国の中でも武漢市は非合法フェンタニルの製造が非常に盛んで、武漢市は「世界のフェンタニルの首都」と呼ばれているそうです。武漢市で新型コロナウィルスが発生し世界的なパンデミックになった影響で中国・メキシコ・アメリカを結ぶ非合法フェンタニルのサプライチェーンが停滞し、供給が激減してアメリカのドラッグマーケットで価格が高騰したと言われています。

なお、中国政府は、今のところ非合法フェンタニルの製造に規制をかけるなどの動きは見せていません。中国政府がこのままの状態を続けるならば、この非合法フェンタニルの問題が新たな米中対立の火種となる可能性があります。

18歳から45歳までのアメリカ人の死亡原因一位に

アメリカ疾病予防管理センターによると、2019年以来、18歳から45歳までのアメリカ人の死亡原因一位がフェンタニルの乱用だそうです。アメリカのオピオイド危機の大半の部分をフェンタニルの乱用が占めているかたちですが、フェンタニル以外にも、医師が処方する鎮痛剤の「オキシコンチン」についても、別の複雑な事情と背景が存在しています。

アメリカのオピオイド危機とは、アメリカの医療制度をめぐる国内問題と、中国との対立を含む国際問題が、複雑に絡み合いながら肥大化してしまったバケモノのようなものかも知れません。特に非合法のフェンタニルについては、アメリカは中国に対して今後さらに強いスタンスを取るようになる可能性が高いでしょう。

なお、医師が処方するオピオイドの「オキシコンチン」の問題については、改めて別の記事に書いてみたいと思います。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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