アメリカで注目のスタートアップ企業・アグリテックのエアロファームズ

従来型の農業が土地を水平的(Horizontal)に活用して作付面積を横に広げてゆくのに対し、土地を垂直的(Vertical)に活用して作付面積を上に伸ばしてゆく垂直農業。サステナブルでエコフレンドリーであるとされる垂直農業が今、アメリカで改めて注目を集めています。本記事では、垂直農業の領域で注目を集めているスタートアップ企業のエアロファームズをご紹介します。

エアロファームズというアグリテック企業

エアロファームズ(AeroFarms)は、2004年にデービッド・ローゼンバーグ、マーク・オーシマ、エドワード・ハーウッドの三人が共同で設立したアグリテック企業です。会社の設立は古いですが、同社は2015年から垂直農業を本格的に開始し、スタートアップ企業としての実質的なスタートを切っています。

エアロファームズの最初の垂直農場は、ニュージャージー州ニュアークにあった広さ3万平方フィート(約843坪)の屋内サバイバルゲーム・アリーナを改造して作られました。翌年2016年には、当時世界最大規模の広さ6万平方フィート(約1686坪)の第二農場兼本社を設立し、関係者の注目を集めています。製鉄工場を改造して作られた第二農場兼本社では、年間200万ポンド(約907トン)もの野菜が生産され、地元の消費地へ出荷されています。

エアロファームズの農法

ところで、エアロファームズはどのようにして作物を栽培しているのでしょうか。他の多くの垂直農場と同様に、エアロファームズは水耕栽培(Aeroponic)で作物を栽培しています。水耕栽培とは、土を使わずに水と液体肥料で作物を育てる栽培方法です。植物の根に溶液を噴射し、成長に必要な養分を溶液から吸収させるのです。従来型の土を使う栽培方法では、土の中に存在する雑菌などを駆除するために農薬が使われますが、水耕栽培では土を使わないので農薬が不要です。水耕栽培で栽培される作物の多くが無農薬で栽培されているのはそれが理由です。

また、エアロファームズの水耕栽培は一般的な水耕栽培とは違い、作物の根を溶液に浸すのではなく、溶液を霧状にして作物の根に噴射する方式を採用しています。それにより、従来型の農法よりも水の利用量を最大95%程度削減できるとしています。

エアロファームズは垂直農業では定番のベビーリーフ、ケール、レタス、バジルなどのリーフ系野菜に加え、トマトやベリーなどを含む550種類以上の野菜や果物を生産しています。

エアロファームズが目指すもの

ところで、エアロファームズは何を目指して垂直農業を展開しているのでしょうか。エアロファームズは自らのウェブサイトで「我々は、現代の農業が抱えるもっとも難しい課題を解決することを目指す」と宣言していますが、具体的には何の問題を解決しようとしているのでしょうか。

第一は、世界規模で進行している水不足の問題です。国連がまとめた「世界人口白書2021年度版」によると、現在世界人口78億7500万人の40%以上にあたる36億人が水不足に悩まされており、その数は今後も上昇すると見込まれています。また、2050年には世界人口の50%以上が水不足に見舞われ、25%が慢性的な水不足に直面すると予想されています。エアロファームズは、自社の垂直農業を拡大し、世界規模で普及させることで水不足の問題解決の一助になると考えています。

第二は、食料のサプライチェーンの問題です。国連によると、全世界で生産される野菜や果物の半分が消費されずに廃棄されているそうです。アメリカ一国でも、年間483億ドル(約6兆7620億円)相当の野菜や果物が廃棄されています。遠距離にある生産地と消費地をつなぐサプライチェーンが抱える構造的な問題ですが、生産地と消費地を可能な限り近づけ、「地産地消」を行うことで、フードロスの問題解決の一助となるとエアロファームズは考えています。

第三は、農薬乱用による土壌汚染の問題です。昨年2021年4月にオーストラリアの研究者が、世界の農耕地の三分の一に農薬が長期的に残留する「高い危険性」があると発表し、関係者を驚かせました。農業生産の拡大により農薬の使用量が世界的に増加しており、環境被害と人類の健康への影響が危惧されています。エアロファームズの垂直農業では農薬は一切使わないため、エアロファームズの垂直農業が普及し、農薬を使う従来型の水平農業をリプレースすることで、この問題に対応できる可能性があります。

海外へ展開も

エアロファームズはまた、海外にも展開する予定です。昨年2021年6月にはUAEの国営企業と共同でアブダビに最先端の垂直農業研究センターを開設する契約に調印しています。中東についてエアロファームズの創業者ローゼンバーグ氏は、「中東は農地も水も慢性的に不足している農業不毛の地です。しかし、エネルギーが豊富で、「垂直農業」のような新たなイノベーションに投資するマインドに溢れています。中東が垂直農業のアーリーアダプターになる可能性は十分あります」とコメントし、その可能性に言及しています。

エアロファームズは現在、ニュージャージー州を中心に200店舗以上のスーパーマーケットに生産した作物を卸しています。また、ディスプレー用栽培システムがGoogle、アメリカンエキスプレス、シティバンクなどの社内カフェテリアに設置され、各社の社員へ新鮮な野菜が提供されています。エアロファームズが垂直農業で生産した野菜や果物は、確実にアメリカの市場でのプレゼンスを広げています。アメリカの垂直農業でのリーディングポジションを固めつつあるエアロファームズの今後に注目です。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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