アメリカのスタートアップ企業の資金調達方法

アメリカ合衆国国勢調査局(United States Census Bureau)によると、アメリカでは2021年の一年間に540万社の法人が新設されたそうです。日本の2020年度の新設法人件数は13万1238社ですので、アメリカの数字は日本の実に41倍ということになります。日本では考えられない数のスタートアップ企業が毎年誕生しているわけですが、そうした企業は一体どのように創業資金を調達しているのでしょうか。

多くのスタートアップ企業が自己資金で創業

調査会社ギャロップによると、アメリカのスタートアップ企業の77%が自己資金で創業しているそうです。ウェルスファーゴ銀行が行った調査によると、アメリカのスタートアップ企業の創業資金の平均額は1万ドル(約130万円)ですので、資金調達額としてはハードルが低いでしょう。1万ドル程度であれば、頑張って貯蓄できる金額に見えます。また、仮に事業立ち上げに失敗してお金を失ったとしても、それほどダメージが大きい金額ではないでしょう。

アメリカでは、事業を最小限でスタートして徐々に大きくしてゆく「リーンスタートアップ」(Lean Startup)というやり方が一般的ですが、以上の数字を見る限り、多くのアメリカ人がリーンスタートアップで事業を立ち上げています。この「リーンスタートアップ」というやり方は、日本の我々も同様に実践可能であり、実際に同様に実践すべきだと考えます。

ベンチャーキャピタルからの資金調達は?

ところで、アメリカのスタートアップ企業と言えば、何となくベンチャーキャピタルから巨額の資金を調達しているといったイメージが付いて回ります。実際、アメリカのメディアではシードファンディング(事業立上げ時の資金調達)で何百万ドルもの資金を集めたといった類のニュースが少なからず報じられています。では、実際にアメリカのスタートアップ企業は、ベンチャーキャピタルから資金を調達しているのでしょうか。

アメリカの経済誌「アントレプレナー」によると、ベンチャーキャピタルから創業資金を調達したスタートアップ企業の割合は、スタートアップ企業全体のわずか0.05%だそうです。しかし、540万社の0.05%は2700社ですので、これはこれで少なくない数に、少なくとも日本と比較した場合に、見えるようにも思われます。日本では、ベンチャーキャピタルから創業資金を調達することはまず絶対に不可能ですので、筆者の視点では、アメリカにおけるベンチャー投資の勢いの良さの一部を見る思いがします。

簡単ではない銀行からの借入

では、銀行からの借入による資金調達はどうでしょう。筆者の拙い経験では、スタートアップ企業が銀行から創業資金を借入れるハードルは相当高いです。特に、実績がないスタートアップ企業が創業資金を借入れるのは、相当優良な担保や連帯保証人などがないと、かなり難しいと思います。前に別の記事でSBA(米国中小企業庁)のSBAローンプログラムについて説明しましたが、SBAローンプログラムを活用すれば、ハードルが少し低くなる可能性は残されていると思います。

また、創業資金の借入については、創業者本人のクレジットスコアも参照されるので、金融事故を起こしたなどの理由でクレジットスコアが低くなっている人の場合、創業資金を銀行から調達することはまず不可能でしょう。

余談になりますが、日本では創業資金を日本政策金融公庫が積極的に貸し出しています。筆者もこれまでに、個人を含む複数のスタートアップ企業の日本政策金融公庫からの借入を手伝ったことがありますが、創業資金の出やすさという意味では、日本の日本政策金融公庫の方がアメリカの銀行よりも出やすいという印象を持っています。ただし、日本政策金融公庫の場合でも、創業資金を100%借入れることは不可能で、通常は一定額の自己資金の拠出が求められます。

結局のところ自己資金がベストか

「アメリカのビジネスとは、ビジネスをすることである」とは、カルビン・クーリッジ第30代アメリカ合衆国大統領の言葉です。その言葉を地で行くように、アメリカでは常時多くの企業や個人が事業を立上げ、ビジネスを始めています。そして、そうした人たちの多くが、実に全体の四分の三以上の人が、自己資金を投じているのです。これは、スタートアップ後進国である日本の我々こそが、特に注目すべき事実です。

日本では、企業や個人事業の廃業率が開業率を大きく上回る「ベンチャー不毛の時代」が長らく続いています。日本のそうした状況では経済の新陳代謝が進まず、新たなビジネスや産業も生まれにくくなります。しかし、日本もアメリカ型のリーンスタートアップ方式によるビジネス立上げを活性化することで、開業件数を少しずつ増加させることが可能なように思えます。130万円程度の資金であれば、サラリーマンでも確保することは十分可能でしょう。「今こそ日本にリーンスタートアップを」と、筆者は高らかに主張いたします。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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