ワークライフバランスとどう違う?ワークライフインテグレーションとは

近年のアメリカで、仕事とプライベートな生活の適切なバランスをとる事を目指すワークライフバランスが注目されています。一方、仕事とプライベートな生活を完全に切り離さず、両者を統合させるべきとするワークライフインテグレーションのコンセプトも注目されています。ワークライフインテグレーションとは何か、基本を解説します。

ワークライフインテグレーションとは何か?

ワークライフインテグレーションをご存知でしょうか。ワークライフインテグレーション(Work life integration)とは、ワーク(仕事)とライフ(プライベートな生活)がトレードオフの関係にあるとするのではなく、共に影響しあって一体化するといったコンセプトのことです。

メリアム・ウェブスター辞典は、インテグレーション(Integration)を「結合する、またはコーディネートする、あるいは一つの機能に統合する、全体として一体化する」という意味であると説明していますが、ワークライフインテグレーションは、仕事とプライベートな生活とを完全に分けるのではなく、一体化してシナジーを発揮するインテグレーションを目指すものです。

ワークライフバランスでは、仕事とプライベートな生活とは、ある種対立する関係にあるとします。1日24時間を、それぞれにどう配分し、バランスをとるかがワークライフバランスの基本的な課題です。一方、ワークライフインテグレーションでは、そうしたバランスよりもワークもライフも含めてその人のライフ全体をいかに豊かなものにするかに主眼が置かれます。

境目がなくなりつつある「ライフ」と「ワーク」

ワークライフインテグレーションが注目され始めた背景には、労働者の仕事のやり方や、労働環境が劇的に変化してきている現実があります。ゴールドマンサックスのデービッド・ソロモン氏は、そのことについて次のようにコメントしています。

「今日台頭している新たな技術革新により、我々は24時間365日勤務することが可能になりました。顧客はリアルタイムな対応を求めており、「ライフ」と「ワーク」の境目はありません。もちろん、休憩時間などもありません。ワークライフインテグレーションは、そうした現実に対応する新しいライフスタイルなのです」

あらゆるものがインターネットに接続し、ユビキタスで仕事ができるようになった今日、人々はその気になればいつでもどこでも仕事ができる環境にいます。オフィスにいなくても、休暇で滞在している南の島のホテルでも仕事をする事ができます。今や多くの労働者が、そうした環境に置かれているのです。

ワークライフインテグレーションに対応するアメリカの企業

アメリカでは現在、労働者の意識がワークライフバランスからワークライフインテグレーションへとシフトしつつあります。転職支援サイトキャリアビルダーの調査によると、アメリカ人労働者の63%が、9時から5時までの勤務時間が象徴する従来型の労働形態は時代遅れだと感じているそうです。

実際、シリコンバレーのベンチャー企業などを中心に、勤務形態をワークライフインテグレーション型にする企業が増えています。Yコンビネーター出身で最近マイクロソフトに買収されたコードシェアリング大手のGitHUBはその典型例です。GitHUBでは勤務時間が完全にフリーで、与えられたタスクを達成できれば、いつどこで仕事をしても問われないそうです。もちろん、完全在宅勤務も可能です。コロナの影響もあってか従業員は積極的にオフィスから外の世界へ出るよう促され、実際に多くの従業員が外で仕事をしているそうです。

GitHUBではオフィスへの出入りも自由で、赤ん坊や小さな子供を連れてくる従業員もいます。また、幹部の中には率先して従業員の子守をする者もいます。オフィスと家との逆目がなく、夜中に働いて日中は子育てをする事も可能です。また、有給休暇が無制限に使えるので、会社のコストで長期の旅行などをすることもできるそうです。

GitHUBは極端なケースかも知れないですが、他の多くのベンチャー企業もGitHUBのようなワークスタイルへ移行しつつあります。特にIT系のベンチャー企業の多くがワークライフインテグレーションに対応した勤務スタイルを導入しています。

日本でもワークライフインテグレーションは浸透するか?

さて、日本でもワークライフインテグレーションが浸透するかについてですが、筆者の個人的予想では、当面はアメリカほど浸透しないと予想します。日本では、数年前に国会で「高度プロフェッショナル制度」の創設が審議され、「現代の奴隷制度」だとして野党が猛烈に反発したことがありました。反対の理由として、野党は「時間外・深夜割増手当も支払わずに、週休2日にあたる年間104日の休みさえあれば、24時間労働を48日間連続させても違法にならない」と主張し、制度そのものを全面的に否定していました。

ことの賛否はともかく、野党のこうした意見に賛成だという人は少なくないと思われます。日本では過労死や仕事がらみの自殺がコンスタントに発生し、「ワーク」と「ライフ」は対立するものという考え方がまだまだ一般的です。労働者が24時間働くことは、日本では絶対的な「悪」だと認識されています。

一方で、外資系のITベンチャー企業などを中心に、シリコンバレー型のワークスタイルを日本に持ち込むケースも出てきています。上に紹介したGitHUBは日本でもユーザーが多く、GitHUBが日本での活動を本格化する可能性もあります。その場合、GitHUBのワークカルチャーが日本へ伝えられる事になる可能性もあります。そうしたワークカルチャーが広まることにより、日本でもワークライフインテグレーションというコンセプトが普及する可能性は十分に残されていますと思います。

(参照サイト)
https://www.forbes.com/sites/rachelritlop/2016/12/18/work-life-balance-vs-work-life-integration-is-there-really-a-difference/#1d3376cd3727 https://www.haas.berkeley.edu/human-resources/life-integration/ https://www.entrepreneur.com/article/273280

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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