増加するアメリカのフリーランス人口と、続く「大辞職」のトレンド

アメリカ人労働者の36%がフリーランスに

アメリカのクラウドソーシングプラットフォーム大手のUpworkが行った調査によると、昨年2021年のアメリカのフリーランス人口は5900万人で、アメリカの全労働者の36%を占めたそうです。面白いのは、高学歴の人ほどフリーランス人口の割合が高く、大学院卒業以上の学歴を持つ労働者の51%がフリーランスで、高校卒業の学歴を持つ労働者の31%がフリーランスだそうです。伸び率では、前者が対前年比で6%増加した一方、後者は対前年比で6%減少しています。高学歴の労働者の流動性が年々高まってきている状況が明らかになっています。

アメリカでは現在、多くの業種で労働者が辞職する「大辞職」(The Great Resignation)が大きな社会問題になっていますが、Upworkによると、現在はフリーランスではない、エンジニアリングなどの高度なスキルを持った正規労働者の56%が、将来フリーランスになると考えているそうです。

なお、アメリカのフリーランスの労働者が稼いだ金額の総額は13兆ドル(約1495兆円)で、2020年度から1000億ドル(約11兆5000億円)増加したそうです。

いまだに続く「大辞職」のトレンド

一方、昨年2021年の初めころより始まった「大辞職」のトレンドがいまだに続いているようです。「大辞職」とは、テキサスA&M大学ビジネススクールのアンソニー・クロッツ教授が命名したものですが、そのトレンドは飲食店や小売業などの比較的低賃金の業界から、ITなどのテック系企業といった比較的高賃金の業界まで幅広く広がり、もはや業種や業界を問わない状態になっています。実際に、2021年10月の1ヶ月間だけで全米の410万人の労働者が辞職しています。

大手監査法人のプライスウォータークーパースが昨年2021年8月に行った調査によると、対象となった正規労働者の65%が転職先を探していると答えており、さらに、企業経営者の88%が、従業員の離職率がかつてなかったほど高い水準に達していると答えています。

労働者の高い離職率は企業の経営にも悪影響を与え、別の大手監査法人のデロイトによると、フォーチュン1000企業のCEOの73%が、人手不足の問題により今後12か月以内に経営が悪化すると答えています。

アメリカ人労働者が辞職する理由とは?

では、なぜ多くのアメリカ人労働者が辞職をしているのでしょうか。辞職をする理由は人それぞれでしょうが、多分に共通しているのがインフレの影響でしょう。アメリカの昨年2021年の消費者物価指数(CPI)は前年から7%上昇し、過去39年間で最大となりました。特にガソリンや食料品などの生活必需品が大きく値上がりし、人々の生活を悪化させています。。

アメリカの飲食店は賃金が安いことで有名ですが、コロナの影響で来店客が激減し、アメリカの飲食店労働者の重要な収入であるチップの額も激減、生活費を稼げなくなって他業種へ転職せざるを得なくなった人が多いようです。アメリカの公共放送PBSは、実際に飲食店のウェイトレスの仕事を辞職し、福祉関係の仕事に転職した黒人女性のインタビューを放送しています。それによると、飲食店で働いて得られる収入では暮らせないし、さらにコロナのパンデミックで飲食業という業界がいかに脆弱であるかを知らされた。パンデミックなどの異常事態に強い業界で仕事をしようと考えたと答えています。

ITなどのテックセクターの労働者も辞職率が増加しています。テックセクターは、もともと慢性的な人手不足の業界であり、賃金も増加傾向にありました。労働市場での賃金相場が上昇し、企業に課せられる従業員のリテンションコスト(従業員をやめさせないためのコスト)が相応に高まっています。それに呼応するように、テックセクターの労働者の転職意識も高まっているのでしょう。より高い収入が得られる他社へ転職するか、あるいはフリーランスとして独立した方が稼げるというケースが増えてきているのは間違いないでしょう。

労働市場の流動化が進むアメリカ、日本はどうなる?

とどのつまり、フリーランス人口の増加と続く「大辞職」のトレンドとは、現在のアメリカにおいて物凄いスピードで労働市場の流動化が進んでいることを示す明確な証拠であると言えるでしょう。別の言葉ではギグエコノミー(Gig economy)化の進行と呼べそうですが、アメリカの労働市場は今後、特にテックセクターなどの高賃金セクターにおいて、ギグエコノミー化が相当程度進むと予想します。

では、日本の今後はどうなるでしょうか。私は、日本でもテックセクターや専門性の高い仕事の領域において、今後一定程度ギグエコノミー化が進むと予想します。ランサーズ株式会社が発表した『新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』によると、2021年時点の日本のフリーランス人口は1577万人だそうです。2021年の日本の労働者人口は6667万人ですので、労働者全体の23.6%ということになります。日本の経済はアメリカの経済を後追いしていると言われますが、私は、5年後には、日本のフリーランス人口割合が現在のアメリカのフリーランス人口割合程度になっていてもおかしくないと考えます。少なくともテックセクターにおいては、ギグエコノミー化が相当程度進むことになるのは間違いないでしょう。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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