YouTubeという名の巨大メディア|基本編
YouTubeのはじまり
YouTubeは、2005年2月にチャッド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリムの三人のPayPal従業員が立ち上げた動画共有サイトです。サンフランシスコのチェンのアパートで開かれたパーティーを撮影したハーリーとチェンが動画をインターネットに公開しようとしたところ、適当なプラットフォームが見つからず、自分達で立ち上げたということです。ハーリーとチェンによると、YouTubeは最初、オンラインデーティング用動画共有サイトとして立ち上げる予定だったそうです。しかし、思ったようには動画が集まらなかったため、オンラインデーティング用動画以外の動画も受け付け始めました。
なお、YouTube史上初の動画を公開したのはYouTube創業者のジョード・カリムです。記念すべき第一号のYouTube動画は「動物園の私」(Me at the zoo)と題された19秒の短い動画で、カリムがサンディエゴ動物園のゾウについて説明する姿を映したものです。この記念すべき世界最初のYouTube動画は、今でもYouTubeで視聴できます。なお、この動画のコメント欄には、サンディエゴ動物園のオフィシャルアカウントによる「この記念すべき世界初のYouTube動画が、ここサンディエゴ動物園で撮影されたことを誇りに思います」というコメントが載せられています。
2006年にGoogleが買収、子会社に
YouTubeは、創業からわずか1年8カ月後の2006年10月にGoogleに買収されました。16億5000万ドル(約1815億円)という大型の買収案件は、当時のインターネットコミュニティで大きな話題となりました。買収により、YouTubeはGoogleのアドワーズ・アドセンスプラットフォーム(Googleの広告管理プラットフォーム)に組み込まれることになります。YouTubeは、今ではGoogleの全売上高の10.9%を稼ぎ出す、Googleにとっての「孝行息子」に成長しています。
YouTubeの売上の内訳
ところで、YouTubeの売上の内訳はどうなっているのでしょうか。YouTubeの売上は、以下のカテゴリーで構成されています。
1.広告収入
YouTubeの最大の収入源は広告収入です。YouTubeは、各種の動画広告や静止画広告をスポンサーに販売しています。動画広告では、スキップ可能なTrueViewインストリーム広告、スキップできないTrueViewインストリーム広告、TrueViewディスカバリー広告、TrueViewアクション広告、バンパー広告、アウトストリーム広告などが利用可能です。
なお、2020年度のYouTubeの広告収入は、197億ドル(約2兆1670億円)となっています。
2.YouTubeプレミアム
YouTubeプレミアムは、11ドル99セント(約1319円)の月会費を払うことで広告を非表示にしたり、YouTubeミュージックやYouTubeキッズなどのコンテンツへのアクセスを可能にするサブスクリプションサービスです(YouTubeミュージックの利用には別途料金が必要です)。2021年9月時点で、YouTubeプレミアムは全世界で5000万人の会員を抱えています。
3.チャンネルメンバーシップ
チャンネルメンバーシップは、YouTuber個人を支援するパトロン制度のような仕組みです。YouTubeユーザーがメンバーシップ登録すると、一定の月額メンバーシップフィーを取られますが、その見返りとしてメンバー専用コンテンツへのアクセス、特別バッジ、メンバー専用絵文字などが得られます。広告収入にアドオンする新たな収入源として、チャンネルメンバーシップを導入するYouTuberが増えています。
4.スーパーチャット、スーパーステッカー
スーパーチャット、スーパーステッカーは、YouTuberのライブチャット中にYouTubeユーザーがコメントを上位に位置させたり、ステッカーを表示させたりする仕組みです。いずれも有料ですが、販売というよりも、「寄付」や「投げ銭」に近いです。人気YouTuberの中には、スーパーチャットやスーパーステッカーで相当な金額を稼ぐ人もいるようです。
なお、スーパーチャット、スーパーステッカーの売上分配率は、YouTuber70%、YouTube30%だそうです。
5.YouTube TV
YouTube TVは、YouTubeがアメリカ国内でのみ提供している有料サービスです。ABC、FOX、NBC、ESPN、CNNなどのメジャーステーションを含む85以上のステーションが視聴でき、録画用ストレージが使い放題となっています。サブスクリプションフィーが月額64.99ドル(約7408円)と少々お高めですが、YouTubeのヘビーユーザーを中心に利用者数を増やしています。YouTubeによると、現時点でのユーザー数は300万人です。
YouTubeの最新スタットは?
なお、YouTubeの最新スタットですが、2021年9月時点で、月間アクティブユーザー数20億人、一日当たりアクティブユーザー数3000万人、ユーザー一人当たり一日平均再生時間17分31秒となっています。また、ユーザーの70%がモバイルデバイスでYouTubeを視聴しています。YouTubeを利用する理由では、「リラックスするため」「エンターテインメントとして」が上位二つに挙げられています。
また、アクティブチャンネル数3800万、YouTuber数1500万人で、チャンネル登録者数100万人を超えるチャンネル数2万2000です。YouTubeで再生回数の多い動画の67%は英語以外の言語で作成されており、英語による動画は28%となっています。検索回数が多いキーワードは、「Pewdiepie」「ASMR」「music」「markiplier」「old town road」がトップ5となっています。
YouTubeユーザーの国籍では、アメリカが最大で16.4%、続いてインド9.2%、日本4.8%となっています。また、成人アメリカ人の73%がYouTubeを日常的に利用し、15歳から35歳の年齢層のYouTube利用率は77%となっています。さらに81%のアメリカ人の保護者が、自分の子供の教育用コンテンツや情報をYouTubeで見つけています。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。