節税に使える?デラウェア・ループホールについて
デラウェア・ループホールとは何か?
先日、Zoomで社内ミーティングをしていた際、ひょんなきっかけでデラウェア・ループホールが話題に上がりました。デラウェア・ループホール(Delaware Loophole)とは、直訳すると「デラウェアの抜け穴」になりますが、「デラウェアの抜け穴」とは具体的に何なのでしょうか。
デラウェア・ループホールとは、デラウェア州の税制を利用した節税テクニックで、アメリカでは比較的古くから使われているものです。デラウェア州では、無形資産および無形資産から得られた売上に税金が課せられません。これを利用して他州の法人の税金を節税するわけです。では、実際にはどのように行うのでしょうか。
デラウェア州に子会社を設立、無形資産を移転
まず、カリフォルニア州ロサンゼルスに本店を置く法人Aがあるとします。Aは、カリフォルニア州の各地で玩具の小売店を複数運営しているとします。そして、Aは毎年1000万ドルの利益を得ているとします。
次に、Aはデラウェア州に100%子会社のBを設立します。そして、Aのロゴやマスコットなどのトレードマーク(商標)の所有権をBへ移転します。
さらに、AとBは、Bが所有するAのトレードマークをAが使用できるライセンス契約を締結します。トレードマーク使用の見返りとして、AはBに対して毎年800万ドルを支払うこととします。
これにより、本来カリフォルニア州で課税対象となるはずだった1000万ドルから800万ドルが消滅し、カリフォルニア州での課税額は200万ドルになります。
以上がデラウェア・ループホールの簡単な仕組みです。なお、デラウェア州における無形資産(Intangible Assets)には、上述のトレードマークのほかに、トレードネーム、ネーミングライツ、ロイヤリティ、特許、著作権、ローンなどが含まれます。そうした「無形資産」を上手に活用すれば、自社の拠点がある州の税金を大きく削減できる可能性が生じます。
一筋縄ではいかないデラウェア・ループホール
一見したところ誤謬がないように見えるデラウェア・ループホールですが、本当に問題はないのでしょうか。実は、デラウェア・ループホールを巡っては、これまでにいくつもの訴訟が起こされてきています。
中でも有名なのが1993年に起こされたトイザらスに対する訴訟でしょう。トイザらスはデラウェア州に子会社ジェフリー合同会社を設立し、自社のトレードネームと、マスコットのキリンのジェフリーのトレードマークの所有権を同社へ移転していました。そして、アメリカ各州のトイザらスから毎年多額のライセンス料を同社へ支払い、納税を回避していました。その結果、複数の州政府からトイザらスに対して訴訟が起こされ、サウスカロライナ州でトイザらス敗訴の判決が出されたのです。
デラウェア・ループホールを事実上認めない州も
また、デラウェア・ループホールを事実上認めない州も出てきています。それらの州は、コンバインド・レポーティング(Combined Reporting)という税務申告方式を採用しており、法人にアメリカに存在するすべての子会社や関連会社の所得を統合(コンバイン)して申告することを求めています。これにより、例えばカリフォルニア法人Aがデラウェア法人Bに支払ったライセンス料もAの課税所得として申告しなければならなくなります。
なお、現在のところ、コンバインド・レポーティングを採用している州は、カリフォルニア州、テキサス州、オレゴン州、コロラド州、イリノイ州、ミシガン州などの28州となっています。一方、フロリダ州、ジョージア州、バーモント州、ルイジアナ州などの22州では、コンバインド・レポーティングは採用されていません。
「節税ありき」では本末転倒
結局のところ、デラウェア・ループホールという仕組は確かに存在し、多くの州においていまだに活用されていることは否めません。特にフロリダ州などは、デラウェア・ループホールにかなり寛容な州であるとされています。しかし、フロリダ州がいくらデラウェア・ループホールに寛容であるにせよ、それだけを理由に法人を設立するのでは本末転倒でしょう。
弊社は、「アメリカのどの州で法人設立するのがベストか?」というお問合せをコンスタントにいただきます。その際にお聞きしているのは、「御社のビジネスは何で、誰をターゲットにし、どのくらいの規模を狙っているのでしょうか」ということです。結局のところ、アメリカで法人を設立する理由はビジネスをするためであり、そのためには、御社と御社のビジネスにとって最高の環境がある州を選ぶべきなのです。間違っても、「節税ありき」で選ぶべきではありません。
最近は、特にカリフォルニア州の物価が上昇し、カリフォルニア州からテキサス州などへ本社を移転するケースが増えています。一方で、IT企業やバイオテック企業などの多くのスタートアップ企業が、シリコンバレーなどを拠点に選んでいます。人材獲得の面、ビジネスチャンスの面、資金調達の面など、カリフォルニアには拠点にするだけの魅力がまだ残っているのです。州としての魅力を総合的に判断し、冷静に、客観的に法人の設立地を決めるべきでしょう。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。