アメリカで存在感を増す「グロース・ハッカー」という人々

グロース・ハッカーとは?

先日、アメリカでウェブサービスの立上げを予定しているクライアントさんに関し、アメリカでのマーケティング戦略について議論する機会がありました。喧々諤々の議論の中で出てきたのは、アメリカ人の「グロース・ハッカー」を雇い、自由に活動してもらうのはどうだろうというアイデアでした。多分、日本人の多くはこの「グロース・ハッカー」という言葉を聞いたことがないと思いますが、アメリカでは今、特にウェブサービスやIT業界において、この「グロース・ハッカー」が存在感を増しているのです。

「グロース・ハッカー」(Growth Hacker)とは、アメリカの著名起業家で投資家のショーン・エリスが2010年に初めて使った言葉で、ニュアンスを直訳すると「(スタートアップ企業にとっての)成長を達成する人」になります。ハッカーとは、他人のコンピューターネットワークに侵入して犯罪行為を働く「悪い人」といったイメージがありますが、本来のハッカーの意味は、「コンピューターの技術的な知識やスキルを駆使して困難を乗り越え、目的を達成する人」です。「グロース・ハッカー」とは、まさしく「あらゆる知識やスキルを駆使して困難を乗り越え、成長を達成する人」なのです。

成長のためにあらゆる努力をする

グロース・ハッカーの命名者ショーン・エリスは、グロース・ハッカーの仕事について「多くの人が勘違いしているが、グロース・ハッカーの仕事とは何にでも有効なひとつの「万能薬」を見つけることではない。マスコミはグロース・ハッカーの仕事のうちの華やかな部分しか報道しない。例えばドロップボックスの顧客紹介プログラムや、エアビーアンドビーのクレイグスリストとの連携システムなどだ。それゆえ多くの人がグロース・ハッカーの仕事は、そうした華やかなものを見つけ出すことだと考えている」

「そのような華やかなものを見つけ出すことももちろん重要だ。しかし、実際には、ほとんどの成長は小さな勝利の積み重ねにより達成されることが多い。定期預金で利子を貯めるように、小さな勝利を積み重ねることでスタートアップ企業のビジネスを離陸させることができる。あらゆることを試し、離陸した後もさらに努力を続けてゆくのだ」と説明しています。

マーケッターとコーダーのハイブリッド

エリスはさらに、グロース・ハッカーとは「マーケッターとコーダーのハイブリッド」であるとも説明しています。コーダー(Coder)とは、コンピュータープログラムを「書ける」人という意味ですが、グロース・ハッカーは、マーケティングの知識や経験がある人であり、コンピュータープログラムを書ける人でもあります。

なぜでしょうか。なぜなら、最近のスタートアップ企業の多くは、立ち上げ時のマーケティングに各種のウェブマーケティングツールを活用する必要があるからです。コンテンツマーケティングを行うにはワードプレスやGoogleアナリティクスの知識とスキルが必要です。ランディングページを作り、かつA/Bテストを行うにはHTMLやCSSの知識が必要です。リスティング広告を行うにはリスティング広告の知識が、ディスプレイ広告を行うにはディスプレイ広告の知識が、それぞれ必要です。さらに他ウェブサイトやウェブアプリケーションと連携する場合には、PHPやJavaScriptなど、本当に「コードを書く」必要が生じるかも知れません。ですので、グロース・ハッカーはそうした知識とスキルをできるだけ多く有していることが望ましいのです。

グロース・ハッカーは、いくらで雇える?

そんなグロース・ハッカーですが、一体いくらで雇えるのでしょうか。アメリカ人のサラリーの額をまとめてデータベース化している「ペイスケール」によると、2020年のアメリカのグロース・ハッカーの平均サラリーは90,161ドル(約946万6905円)です。プログラマーやシステムエンジニアなどのサラリーと比べても遜色のない、それなりの金額になっています。なお、グロース・ハッカーのサラリーは年々上がってきており、今後さらに上昇すると予想されています。

グロース・ハッカーは、上述したドロップボックスやエアビーアンドビーのほかに、Facebook、Gmail、グルーポン、ハブスポット、インスタグラム、ネットフリックス、LinkedIn、Slackなどの企業で活躍しています。また、「グロース・ハッカー」という呼称を用いていない企業でも、「グロース・ハッカー」的な人材を採用する機運が総じて高まっています。

御社が今後アメリカで事業を立ち上げる際、特にウェブアプリケーションなどのネット系の事業を立ち上げる際、単に「営業マン」や「マーケッター」を採用するのではなく、「グロース・ハッカー」を採用することとをおすすめします。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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