アメリカで注目のスタートアップ企業・Insurtechのレモネード

2020.10.27

ソフトバンクが1憶2千万ドルを投資したレモネード

レモネード保険会社(以下「レモネード」と略します)は2015年設立、ニューヨークに拠点を置くInsurtechスタートアップ企業です。同社は損害保険業の主要なオペレーションにAIを導入し、透明で効率的な経営をする事で注目されています。まさにInsurtechの代名詞のような会社ですが、同社のビジネスモデルは、従来型の保険ビジネスを破壊する可能性を秘めています。

同社の説明によると、従来型の損害保険ビジネスとは、契約者から集めた保険金をまとめてプールし、運用する事で利益を生むというビジネスモデルです。保険会社は巨大な機関投資家であり、グローバルに投資を行ってきました。プールされた巨額の資金は保険会社の利益の源泉となり、保険の契約者とはある種の利益相反の関係にもなっていました。レモネードによると、契約者が保険金の支払いを請求しても保険会社が積極的でないケースが少なくないのも、ひとえにこれが理由です。

なお、レモネードにはソフトバンクがシリーズC投資で1憶2000万ドル(約127億円)投資し、大口株主となっています。同社にはほかにもGoogleベンチャーズ、セコイアキャピタルなどの著名ベンチャーキャピタルも出資しています。同社は現在、アメリカの投資家が最も注目するInsurtechスタートアップ企業の一つとなっています。

古くて新しいレモネードのビジネスモデル

レモネードは、集めた保険金を保険会社のお金としてではなく、あくまでも契約者のお金として扱うとしています。月額の保険料を預かり、費用や再保険料を支払い、余ったお金で保険金を支払う。保険金が請求されれば契約者にお金を返金し、請求されなければレフトオーバーとして処理されます。処理されたお金は毎年ギブバックされ、チャリティ団体などへ寄付されます。

保険金の支払額がプールされたお金を上回った際は、再保険を請求して補填します。お金が余っても余らなくても契約者がプールしたお金として処理されます。透明で公平、そして効率的な同社の経営は、古くて新しい保険会社のビジネスモデルだと言えるでしょう。レモネードによると、契約者から集めた保険金の20%はレモネードの経費として使われ(利益も含まれるとのこと)、残りの80%が保険金の支払いとギブバックに使われるそうです。

保険金の請求はチャットボットが対応

レモネードの損害保険を購入するのは非常に簡単です。パソコンかスマホにアプリをインストールして申し込みます。保険を掛けたい物件の住所を入力し、火災報知器や防犯アラームの有無、ルームメートやペットの有無などを入力して生年月日を入力するとAIが即座に保険料を計算して表示してくれます。金額が気に入ればそのまま申し込んでクレジットカードで決済します。宝石や自転車などの私物を保険対象に加えたければオプショナルで追加できます。保険料の計算と決済は完全自動で行われ、人間は介在しません。

保険金の請求も同様にAIチャットボットと行います。Mayaと名付けられたチャットボットに保険金を請求したい旨を伝えるとテキストベースで対話が始まります。保険金支払いの対象や事故発生時期などを入力し、やり取りをしてゆくと自動的に保険金支払いの手続きが実行されます。チャットボットは不眠不休で働くので、24時間いつでも請求が可能です。

レモネードは保険業界のゲームチェンジャーとなるか?

現在のところ、レモネードの保険は賃貸物件の賃借者向け保険と住宅用保険に限定されています。レモネードの保険料は明らかに他社のものより競争力があるようで、同社によると、ファーマーズ損害保険、ホームサイト損害保険などの従来型の大手損害保険会社の加入者の31%がレモネードの保険に切り替えているそうです。「保険料を保険会社のお金として扱うのではなく、契約者のお金として扱う」という同社のビジネスモデルは、従来型の大手保険会社の顧客を着実に引き寄せつつあるようです。

保険契約者から巨額の資金を集め、運用して利益を得るという従来型の損害保険ビジネスに対し、AIなどの最新のテクノロジーを活用して経営を効率化し、保険料の低減と保障の拡大を目指すというレモネードのビジネスモデルは、間違いなく保険業界のゲームチェンジャーになるでしょう。そして、同社の損害保険ビジネスの対象は、他の分野へも拡大してゆく事は間違いないでしょう。

レモネードは現在、ニューヨーク州、カリフォルニア州、イリノイ州などの全米8州で事業を展開しており、現在も事業範囲を拡大しています。そして、ソフトバンクが大口の株主となったということは、同社はいずれ、日本にもやって来るということを意味します。

巨額の資金を集めて運用して利益を得るという損害保険ビジネスは、アメリカ以外でも行われています。日本の損害保険会社は、世界基準から見ても極めて巨大な機関投資家として知られています。ゲームチェンジのインパクトの大きさという点では、日本の損害保険会社が受けるインパクトの方がアメリカよりもはるかに大きいでしょう。浮沈を謳われた巨艦が氷山に衝突して沈没したように、日本の損害保険業界もコリジョンコースをまっすぐに進んでいるようにも見えます。ソフトバンクがレモネードに出資した目的は、保険業界のゲームチェンジを実現させるためであるのは間違いありません。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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