アメリカで注目のスタートアップ企業・トレース・ジェノミクス

2020.10.14

アグリテック・スタートアップ企業のトレース・ジェノミクス

サンフランシスコに拠点を置くアグリテック(農業テック)・スタートアップ企業のトレース・ジェノミクス(Trace Genomics)が注目を集めています。トレース・ジェノミクスは2015年設立、農場の土壌を分析し、最適化のためのソルーションを提供する会社です。

トレース・ジェノミクスのサービスはシンプルです。分析を希望する農家は、自分の農地の土壌サンプルをサンプルキットに入れてトレース・ジェノミクスへ送付します。送られて来た土壌サンプルはDNAレベルで解析され、微生物や病原菌、菌などの分布状況が分析されます。分析結果は農家へ通知され、農家は土壌を最適化するための肥料、農薬、その他の処理を施します。なお、分析にかかる時間は2週間程度で、費用は199ドル(約21,000円)です。

主にカリフォルニア州の農家を相手にサービスを拡大してきた同社は、これまでにレタス、イチゴ、ナッツ、オレンジ、ブドウ、コーン、大豆、麦などの農場の土壌から1万点のサンプルを分析し、データベース化してきました。同社のソルーションが、フサリウム病というレタスの病気に悩まされてきた大規模レタス農家を救った事例もあるそうです。

目指すは農業の23andMe

トレース・ジェノミクスの共同創業者ダイアン・ウー氏とプールニマ・パラメスワラン氏によると、トレース・ジェノミクスは農業における23andMeになる事を目指しているそうです。23andMeとは、人の唾液などのサンプルからDNAを解析し、その人が将来がんなどの病気にかかるリスクを診断したり、家系などの情報を分析するサービスを提供している会社です。自分のルーツを知りたい、または病気にかかるリスクを知りたいというニーズから大人気となっています(なお、同社はこれまでにGoogleの親会社アルファベットに買収され、傘下におさまっています)。

人間一人ひとりが独自のDNAを持つように、土壌もそれぞれ固有の微生物、細菌、菌などを持っています。土壌の個性を知り、最適化する事で生産性を上げる事が可能になるのです。

シードファイナンスで400万ドルを調達

なお、トレース・ジェノミクスは、これまでにリファクター・キャピタル、ファールライン・キャピタルなどのベンチャーキャピタルから400万ドル(約4億2千万円)をシードファイナンスで調達しています。同社に投資したリファクター・キャピタルのジェネラルパートナーのザル・ビリモリア氏は、「健康な土壌が健康な作物を生み出します。土壌の中には危険な病原菌や有用な微生物など様々なものがひしめいています。そして、それらすべてが種まきのシーズンから刈り取りまでのすべての期間において影響します。土壌の中身を生物学的に理解する事が、農家にとって非常に重要なのです。しかし、これまではそのデータを手にする方法がなかったのです」とコメントしています。

これまで農家の勘と経験に頼ってきた土壌管理の世界に、データと科学的分析アプローチを持ち込むことでより優れたアウトプットを生み出すことが可能になる。トレース・ジェノミクスのビジネスは、農業の世界を一変させるゲームチェンジャーになる可能性があるのです。

土壌微生物などのデータもビッグデータ化

トレース・ジェノミクスのビジネスの核となるのは、他のテック系スタートアップ企業と同様、AIとビッグデータです。トレース・ジェノミクスはこれまでに1万点の土壌サンプルを入手し、データベース化している。土壌サンプルの数が増えるほど分析の精度が高まり、同社の優位性もさらに高まります。

リファクター・キャピタルのビリモリア氏も、「トレース・ジェノミクスが集めるサンプルの数が増えるほど、彼らのデータベースはより強力になってゆきます。データベースが強力になれば、彼らの分析力も高まり、それぞれの農家に応じたより具体的なアドバイスをすることが可能になります」とコメントしています。

気候変動がビジネスチャンスをもたらす?

世界規模での温暖化や異常気象など、気候変動が顕著になってきています。気候変動は、特に発展途上国の農業に悪影響を与え、小規模農家を危機的状況に陥れています。日本やアメリカなどの先進国でも、農業が気候変動により大きな影響を受けています。

世界の気候が大きく変動する中、農業の基本である土壌の健康を維持する事が、今後これまで以上に求められてくることは間違いないでしょう。気温の変化により微生物などの活動が変化し、農作物の育成にも影響を与えてくるからです。土壌の健康を維持するためには、土壌の状態をトラッキングし、適時処置などを行う必要があります。

その意味で、トレース・ジェノミクスのビジネスへのニーズは、今後高まることは間違いないでしょう。現在はカリフォルニア州を中心に順調にビジネスを伸ばしていますが、今後は州を越え、あるいは国を超えてサービスを拡大してゆくでしょう。23andMeは、既に日本でも多くの人が利用していますが、トレース・ジェノミクスのサービスを使う日本の農家も出てくるかもしれません。グローバルに広がる可能性がある同社のビジネスに今後も注目です。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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