日本食(和食)をヨーロッパで広めよう
筆者はヨーロッパに住んでいますが、日本食(和食)はヨーロッパで意外と浸透していると感じています。ただ、その様子は日本人の考えるイメージとは異なると考えています。日本政府やジェトロ(日本貿易振興機構)も日本食普及に力を入れています。弊社も多くの日本企業や個人の方から日本食(和食)レストランをヨーロッパで展開したい、日本食品の輸出を行いたいというご相談をよくお受けしています。そこで今日は特に日本食(和食)レストランに注目してヨーロッパにおける日本食(和食)事情をお伝えします。
ヨーロッパ人が考える日本食とは
ヨーロッパの50万人以上都市で日本食レストランがない街はないといっても過言ではないほど、日本食(和食)はヨーロッパに根付いています。日本食(和食)といえばやはり寿司です。いわゆる日本食レストランだけではなく、中華系、韓国系、ベトナム系といったアジア系レストランでも寿司を取り扱っているところもあります。したがって、寿司=日本食(和食)というよりも、グローバルフードのSushiとして浸透している印象があります。
また、ラーメンも人気です。ラーメン自体は中国から影響を受けて日本で発展したものですが、ラーメン好きのヨーロッパ人もいます。特にアジア圏に長期で滞在していたことがあるヨーロッパ人でラーメンファンは少なくありません。ロンドンなどの大都市では複数のラーメン店があり、日本のラーメン店とは引けを取らない味のラーメンを提供している店もあります。寿司やラーメンに限らず、ロシアやイタリアなど新型コロナウイルス(COVID-19)前から日本食(和食)の人気が上がっている国もあるようです。
ヨーロッパで日本食(和食)を取り扱う際によくある先入観と誤解
日本食(和食)レストランをヨーロッパで開業しようとお考えの方は少なくありませんが、決して容易ではありません。そういう方々がお持ちの先入観・誤解は以下のようなものがあります。
( 1 ) 日本人が経営する本格日本食(和食)が現地人にも受け入れられるに違いない
上述のとおり日本食(和食)を取り扱うお店はヨーロッパに数多くありますが、そのオーナーは日本人でないことも多いです。「だからこそ、本格的な日本食(和食)を!」とお考えの方はいらっしゃいますですが、それが現地での成功に直結するとは限りません。ヨーロッパの人で純日本産にこだわる人はごく少数です。それ以前に彼らの多くは日本人、韓国人、中国人、ベトナム人など見分けさえつきません。ジェトロ(日本貿易振興機構)が取り組んでいるような「日本産食材サポーター店認定制度」なども素晴らしい試みですが、「日本人がやっているから価値がある」という意識はまず捨てることをお勧めいたします。名誉のために申し上げますが、一部では「日本人が経営している本格日本食(和食)」を求めるヨーロッパ人もいます。しかしそれはきわめて少数であることをご理解ください。
( 2 ) 日本で流通している日本食(和食)の味や形態に縛られる
日本の常識やご自身のこだわりに執着することで、現地での成功を逃すこともあります。例えばアボカドを使った寿司は日本ではあまり見かけませんし、抵抗を覚える方もいらっしゃるでしょう。しかし、カリフォルニアロールのようにアボカドを使った寿司は、ヨーロッパではよく見かけます。アボカドは森のバターと言われるほど栄養価が高く、ベジタリアンやビーガンの人も食べることができます。さらに、アボカドはヨーロッパのスーパーで必ず見かける野菜の一つであり、日本よりも安価に手に入ります。アボカドを使った寿司は現地の人にとっても受け入れやすく、コスト削減にもつながります。したがって純日本食(和食)が必ず現地の人に受け入れられるとは限りません。ラーメンも元はと言えば中国から取り入れたものを日本で発展させ、今や日本各地でご当地ラーメンが見られるようにさえなりました。したがって日本の常識にとらわれることなく、柔軟な発想を持って現地のニーズに合わせた日本食(和食)を提供することが重要となるでしょう。
( 3 ) ビジネスとして長期的に成功させる視点がない
海外で日本食(和食)レストランを開業する場合、店舗を借りて機材をそろえ、人を採用するだけではなく食材を輸入するなど複雑なプロセスが必要になります。こういった手続きは英語だけではなく現地語でその国や地域の法律を熟知した上で行う必要があります。中には、現地の法律で日本から輸入できない食材も存在します。保健所の検査なども日本よりも厳しい国がほとんどです。基本的にヨーロッパの事務手続きは日本よりも遅いため、スムーズに行かないことがほとんどです。したがって、開業を決めてから実際の開店に漕ぎ着けるまで日本の3倍以上の時間とお金を有するとお考えください。なお開業をしてからもビジネスが軌道に乗るまで時間がかかります。(2)で記載した通り、現地のニーズに合わせて味付けや提供形態を工夫する必要があります。ヨーロッパ人は基本的に日本人ほど食事にこだわりや興味がないため、現地人に認知してもらって新しい食文化が根付くまでとても時間がかかります。
また、人の問題が非常に重要です。よくある誤解として、オーナーとなって現地に開業したからご自身も簡単に移住できるとは限りません。日本人の従業員を雇ってビザを発給してもらうこともほぼ不可能な国や地域もあります。この辺りの情報については、「ヨーロッパでの現地拠点設立に関する注意点」をご参照ください。したがって、最初の段階からどのように営業を行っていくのかを、現地の事情を熟知した専門家と一緒に進めていく必要があるでしょう。
コロナの流行で新たなブームも
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が世界経済に大きな打撃を与えており、ヨーロッパでも閉店や提供形態の変更などを余儀なくされた日本食レストランも少なくありません。しかし、日本食(和食)については追い風も吹いています。ヨーロッパではロックダウンや在宅勤務などの影響で運動不足の人も少なくなく、低カロリーでヘルシーな日本食に注目が集まっているようです。また食事の取り方自体もこれまでとは変化が見られます。日本同様にデリバリーサービスやテイクアウトを活用する人も増えています。家で自炊する人も増えているため、新しい食材や調理法などに挑戦する人も増えています。それに伴い、調味料や食材がセットになったミールキットやそれらを取り扱うサービスを利用する人も増えているようです。このように人々の食生活にも大きな変化が見られるため、もともとヘルシーでユニークという好印象がある日本食(和食)についても注目が集まり、新たなビジネスの機会ともなっています。
どの国や地域においても「食」はもっとも重要な要素であり、新型コロナウイルス(COVID-19)流行下であっても決して揺らぐことはありません。南欧を除いて全体的に食に関して保守的な傾向が見られるヨーロッパ人とはいえど、その形態に変化が見られます。これを機会にヨーロッパでの日本食(和食)ビジネス参入を検討されてはいかがでしょうか。
出典
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ). 海外における日本産食材サポーター店認定制度 | 農林水産物・食品の輸出支援ポータル (https://www.jetro.go.jp/agriportal/supporter/)
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) (2020). 【WEBセミナー】 海外市場の現状と新型コロナウィルスの影響後を見据えた 日本産食品の可能性-ロンドン・ベルリン編-、-パリ・ミラノ 編-
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。