【アメリカ人の生活】アメリカで「ハンバーガーヘルパー」の売上が増加しているワケ

アメリカで「ハンバーガーヘルパー」の売上が増加しています。製造販売元イーグルフーズによると、2025年8月の「ハンバーガーヘルパー」の売上は前年同月比で14.5%増加、今もそのトレンドが続いているそうです。アメリカの国民的常備食のひとつである「ハンバーガーヘルパー」の売上が増加している理由は何か、現状などと共にお伝えします。
ハンバーガーヘルパーとは?
ハンバーガーヘルパー(Hamberger Helper)は、1971年にアメリカの大手食品メーカーのゼネラルミルズが販売を開始した「パッケージド・フード」です。パスタまたは米をベースにしており、ハンバーガーミートとも呼ばれる牛ひき肉(Ground beef)を混ぜて鍋ひとつで手軽に調理できる「ワンポット・ディッシュ」(One pot dish)です。
一番人気の「チーズバーガー味」をはじめ、「ポテトストロガノフ味」「チリトマト味」「ツナ・クリーミーパスタ味」などの様々なバリエーションが用意された、アメリカの常備食(Staple food)の代表格です。ハンバーガーヘルパーを知らないアメリカ人は存在せず、多くの家庭の食品棚に常備されている定番アイテムです。
そんなハンバーガーヘルパーですが、上述の通り、売上が前年同月比で14.5%増加し、今もそのトレンドが続いています。その背景には一体何があるのでしょうか。

不況時に誕生したハンバーガーヘルパー
ハンバーガーヘルパーは、開発元のゼネラルミルズが1970年代初頭に発生したオイルショックのさなかに開発した歴史を持ちます。第四次中東戦争が勃発し、アラブ産油国が石油の供給制限を進めた結果、原油高を起因とする世界的物価高が発生、アメリカや日本を含む西側諸国は軒並み高インフレに見舞われました。アメリカでは、特に牛肉の価格が高騰し、ステーキ肉などが買えない家庭が続出、1ポンド(約453.6グラム)の牛ひき肉で家族5人のお腹を満たすことを目的にしたパッケージド・フードの開発が始まりました。
そしてゼネラルミルズが「ハンバーガーヘルパー」を開発し、市場へ投入したところ歴史的な大ヒットとなり、ハンバーガーヘルパーは一躍その名を全米に轟かせました。牛ひき肉1ポンドを買ってくればフライパンで「ハンバーガーヘルパー」のシーズニングと炒めて水とパスタを投入するだけ。ワンポットで家族5人が十分に満足できるディナーメニューが簡単に用意できるのです。「ハンバーガーヘルパー」は、オイルショックで家計が厳しくなったアメリカ人の家庭に、安価で必要十分な食事を提供する、「不況時の家計ヘルパー」としての地位を築き始めたのです。

2025年、あらためて「ハンバーガーヘルパー」活躍の時が
時を超えた2025年現在、アメリカは改めて家賃や食料品などの生活コストの上昇に苦しんでいます。特に食料品の値上がりは凄まじく、アメリカ農務省経済リサーチサービスの推計では、2025年度の牛肉の値上がり率は対前年比で11.6%になると予想されており、豚肉の1.4%、鶏肉の1.9%を大きく上回っています。アメリカ人は、肉と言えば牛肉と言うくらい牛肉が大好きな人達ですが、そのアメリカ人が大好きな牛肉が、トランプ関税の影響などを受けて値上がりし、多くの人の手が届かない存在になりつつあるのです。
アメリカでは、牛ひき肉が牛肉の中で最も安いとされていますが、その安い牛ひき肉でさえ値上がりを続けています。現在のアメリカでハンバーガーヘルパーが爆売れしている背景には、多くの牛肉が大好きなアメリカ人が、やむを得ず牛ひき肉を買わざるを得ない現状があるのです。

一般的な経済指標になりつつある「ハンバーガーヘルパー指数」
アメリカの地方経済紙「デイリー・エコノミー」は、不況になって消費が一般的に縮小するとハンバーガーヘルパーの売上が増加する一連の傾向を「ハンバーガーヘルパー指数」(Hamburger helper index)と呼び、アメリカの景気を指し示す有効な指標であると主張しています。同紙はまた、ハンバーガーヘルパーと同様に、景気が悪化すると売上が増加する食品のひとつとして「ベークドビーンズ」も挙げており、昨今の景気後退を受けて「ベークドビーンズ」の売上も増加しているとしています。なお、「ベークドビーンズ」(Baked beans)は、インゲン豆をトマトソースで煮込んだ煮豆の缶詰で、アメリカ人が大好きな缶詰のひとつです。
同紙はさらに、かの著名な投資家ウォーレン・バフェットが提唱した「男性用下着指数」についても言及しています。「男性用下着指数」(Men’s underwear index)とは、景気が悪化すると男性用下着の売上が減少し、景気が良くなると売上が増加する傾向を示した経済指標のことです。バフェットによると、男性用下着とは、そもそも購買対象としては箸にも棒にもかからないどうでも良いものですが、景気が悪くなると真っ先に買い控えられ、一方景気が良くなると普段は手にしないような派手で高額なものが売れるようになると言うのです。コカ・コーラやAppleなど、人々の暮らしに密着した製品を作る企業への投資を好むバフェットらしいアイデアですが、景気が悪化する局面にあってもユーモアを忘れないアメリカ人が少なくないことに安堵する次第です。願わくは、アメリカの景気が速やかに回復せんことを。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
