【世界に激震】トランプ関税の今後の展開を占う

2025年4月2日、トランプ大統領が世界主要国に対して一連の「相互関税」(Reciprocal Tariff)の適用を開始すると発表、世界中を混乱に陥れました。衝撃的な発表を受けてアメリカの株式市場、債券市場、為替市場は揃って大幅に値を下げ、トランプショックによる「トリプル安」に見舞われました。トランプ政権は、ただちに相互関税の適用を「90日間猶予する」と発表しましたが、今後の先行きは不透明なままです。日本企業にも多大な影響を与えつつある「トランプ関税」の今後の展開を予想します。
スマートフォン、パソコン、半導体などは「非課税品目」に
この記事を書いている現時点(2025年4月14日)までに、トランプ政権はスマートフォン、パソコン、半導体などの中国からの一部の輸入品に対する145%の関税を免除すると発表しました。これにより、関税の影響で販売価格が大幅に値上げされると予想されていたアップルのiPhoneなどの値上げは、当面の間行われないことになりました。中国に対して非常に厳しい姿勢で臨んでいたトランプ政権ですが、スマートフォンの大幅な値上がりを危惧するアメリカ国民の声に押された形となったようです。
アメリカ税関は今日までに、免除される中国からの輸入品の詳細なリストを作成・公開しています。上述のスマートフォンなどに加えて、ラップトップ端末、ディスクドライブ、半導体製造装置、メモリー半導体、パネルディスプレーなども含まれています。コンピューターや半導体などの「ハイテク製品」が多いですが、アップル、Nvidia、デルコンピューターなどのアメリカを代表するIT企業による、何らかの「陳情」が行われた結果でもあるとする見方が濃厚です。

「トランプ関税」によりiPhone16の販売価格が2300ドルに?
ロイターの報道によると、今回のトランプ政権による中国への145%関税の適用により、アップルの最新機種iPhone16のアメリカでの販売価格は、1599ドル(約24万円)から2300ドル(約34万5000円)に値上がりすると予想されていました。1599ドルでも高いとされているiPhone16ですが、さらに44%も値上がるとなると、多くのアメリカ国民にとってさらに手が出せないものとなってしまいます。
実際に、関税開始日直前のアメリカ各地のアップルストアには連日多くの客が駆け込み、値上がり前の価格でiPhoneを入手しようと長蛇の列を作っていました。トランプ関税による物価の上昇は、皮肉なことにiPhoneというアメリカを代表する企業が生み出した、もっともアメリカ的なイノベーティブ製品において先行して現れ、多くのアメリカ国民に「自衛策」を採らせるトリガーとなってしまったのでした。

「90日の猶予期間中」に各国との「ディール」を画策か?
開始早々混乱に見舞われている「トランプ関税」ですが、今後の展開はどうなってしまうのでしょうか。筆者は、トランプ政権は「トランプ関税」を武器に各国とテーブルにつき、「90日の猶予期間中」に各国と「ディール」(交渉)して可能な限りアメリカ有利な条件で決着しようとし、その結果、各国間で貿易条件などにおいてばらつきが生じ、結果的に友好国グループと非友好国グループとに分かれることになると予想します。
日本とて例外ではなく、「90日の猶予期間中」に日本はトランプ政権と早々に交渉を開始し、アメリカ側が提示する各種の条件を検討させられることになると思われ余す。自動車、半導体製造装置、工作機器などの日本の主要輸出品目については、ある程度日本側の主張が汲まれることになる可能性が高い一方、農産物やエネルギーなどについては、非関税障壁の緩和や解消、あるいは輸入クオータの設定といった、アメリカ側の条件を飲まされる結果になる可能性があると考えます。トランプ流の「ディール」の根底には、「タダ乗り」(Free ride)や「ぼったくり」(Rip-off)を許さないトランプ政権の基本的思想があることを忘れてはならないと思います。

「トランプ関税」の目的の一つは「中国外し」
トランプ政権との「ディール」により、世界中の国々がアメリカの「友好国」と「非友好国」とにグループ分けされると予想される中で、徹底されるのはあからさまな「中国外し」でしょう。「トランプ関税」の目的については様々に議論がされていますが、多くの人が指摘するのが、アメリカの国際貿易およびサプライチェーンからの「中国外し」です。いわゆる「デカップリング」(Decoupling)と呼ばれるものですが、トランプ政権は、どうやら本気で中国をデカップルして、サプライチェーンから分断する方向に動いているようです。
2024年度のアメリカと中国の貿易額は5824億ドル(約87兆3600億円)で、うち中国からアメリカへの輸出額4389億ドル(65兆8350億円)、アメリカの貿易赤字額2954億ドル(約44兆3100億円)にも達しています。見た目には分断不可能なほどの大規模な貿易が展開されているわけですが、「トランプ関税」の目指す目的のひとつである「中国デカップリング」がどこまで実現するのか、世界中の多くの人が注目しています。

前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。