【アメリカ人の生活】アメリカ人はどれだけ借金をしているのか?

「資本主義のリーディングカントリー」で「GDP世界第一の経済大国」アメリカ。中国に次ぐ世界第二位の貿易大国で、GDPの約七割を国内消費が占める「消費大国」でもあります。一方、経済大国アメリカを支える大きな土台が借金です。

アメリカ財務省の発表によると、2023年12月29日時点のアメリカの「公的債務残高総額」は34兆10億ドル(約5285兆5000億円)で、過去最高を更新しました。そして、アメリカという国家を構成するアメリカ国民の多くも各種の多額の借金を抱えています。今回は、アメリカ人の借金事情について解説します。

増加するアメリカの家計債務

米ニューヨーク連邦銀行が2024年2月6日に公表したレポート「家計債務と信用に関するレポート」によると、2023年第4四半期末時点のアメリカの家計債務の総額は17兆5030億ドル(約2712兆9650億円)で、前四半期から2120億ドル(約32兆8600億円)増加しました。

内訳は、クレジットカードローンの残高が過去最高の1兆1290億ドル(約174兆9950億円)で、前期比で14.5%増加しました。また、自動車ローンは1兆6070億ドル(約249兆850億円)、住宅ローン12兆6120億ドル(約1954兆8600億円)、教育ローン1兆6010億ドル(約248兆1550億円)と、それぞれ前四半期から増加しました。

そのうち、延滞などの問題債務が全体の3.1%となっており、前四半期から0.1%ポイント上昇しています。ニューヨーク連邦銀行は、政府の経済支援の後退を背景に延滞率が上昇していると指摘し、特に自動車ローンの延滞率が新型コロナウィルスのパンデミック前の水準を上回っており、「悪化が広範囲に及んでいる」としています。

若年層・壮年層を中心にクレジットカードの延滞が増加

消費大国アメリカは、同時に「クレジットカード大国」でもありますが、現時点のアメリカでは若い世代を中心にクレジットカードの延滞が増加しています。ニューヨーク連邦銀行のレポートは、2023年第4四半期にクレジットカードの支払が出来ずに延滞した割合は8.52%で、12年ぶりの高水準になったと伝えています。また、若年層を中心に、90日以上の深刻な延滞に陥るケースが急増しています。

年齢別では、90日以上の延滞に移行した債務の割合は、18歳から29歳の年齢層が9.65%ともっとも高かったそうです。また、延滞率がもっとも伸びたのは30歳から39歳の年齢層で、同レポートは「若年層と低所得層の間で経済的ストレスが高まっている」と問題点を指摘しています。

自動車ローンでも延滞が増加

また、自動車ローンでも延滞が増加しています。上述のレポートは、2023年第4四半期の自動車ローンの延滞率が7.7%に上昇、過去13年間で最高となったことも伝えています。自動車ローンの延滞増加の原因については、「新車販売価格の高騰と金利の上昇」を挙げ、多くのアメリカ人の財布を直撃したとしています。

ニューヨーク連邦銀行のある研究員は自らのブログで、「2022年と2023年に開始された自動車ローンの多くは、それ以前に開始された自動車ローンよりも延滞率が高くなっている。これらの年に自動車を購入した人は、より高額な自動車の販売価格と、より高い金利により、以前よりも多くの返済負担を強いられているからだ」と説明しています。

アメリカでは現在、自動車の販売価格や金利の上昇に加えて、自動車保険も相応に値上がりをしています。自動車保険の保険料負担増加も、多くのアメリカ人を苦しめる要因となりつつあります。

「緊急時の1000ドルがない人」が大半のアメリカ

借金大国アメリカに住むアメリカ人は、総じて貯金が苦手で、実際に貯金をほとんどしていない人が大半であることで知られています。金融情報会社バンクレートが最近行った調査によると、「緊急時に使える1000ドル(約15万5000円)の現金が手元にある」と答えたアメリカ人は全体の44%で、56%が「緊急時の1000ドルがない」と答えたそうです。

では、実際の「1000ドルが必要な緊急事態が生じた際の対応策」としては、「クレジットカードを使う」(21%)、「家族や親類から借りる」(10%)、「金融業者から借りる」(4%)という回答で、生活費などの経常支出を削減するといった回答をしたのは16%に過ぎなかったそうです。

多くのアメリカ人の生活がカツカツであるが故に緊急資金が蓄えられないのか、または十分な収入はあるのにそれ以上に支出が大きいために余裕がないのか、それぞれの家庭の事情については想像するしかありませんが、例えば「病気やケガをした」「車がパンクした」「家の一部が損壊した」といった、一般的に1000ドル以上はかかる緊急事態が生じた際に、半数以上のアメリカ人は即座に対応できない状態にあるのです。

ましてや、失業などで突然収入が得られなくなってしまった場合など、失業保険を頼りにする以外になすすべはありません。前に別の記事でも書きましたが、多くのアメリカ人はみずから好んで貯金をしていないのではなく、貯金をしたくてもするための財源がない人がほとんどである可能性が高いと思われます。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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