海外赴任者の安全・リスク管理
海外に赴任するにあたって気になることとして、新しい環境でのお仕事はもちろんのこと、語学や現地での生活、お子様の学校のことなどが上位に上がります。しかし、疎かにされがちな安全やリスク管理は非常に重要です。日本のように世界でもかなり治安のいい国に住んでいると、海外では日常的に注意が必要となることも多いです。年が明けると海外赴任の辞令が発令される方も多いかと思い、今回は海外赴任者の安全・リスク管理についてお伝えします。
なお海外赴任者および送り出す側が配慮するべきことや健康管理について、株式会社WizWe様のホームページに以下の内容を寄稿しておりますのでそちらもあわせてご確認ください。
海外では日本と同じ感覚で行動しない
日本は世界でも稀に見る治安のよい国です。Global Peace Index 2022によると日本は世界第10位の治安の良い国とされており、特に安全と治安というカテゴリーにおいては第3位です。海外において気をつけていただきたい点は以下の3点があります。
- スリ・ひったくりなどの日常的な軽犯罪
- 強盗・誘拐
- テロや暴動
( 1 ) スリ・ひったくりなどの軽犯罪
日本の特徴はスリやひったくりといった軽犯罪の少なさです。例えば電車にうっかり財布やスマホを置いて来てしまったという場合、日本では落とし物窓口経由で返ってくることがよくあります。日本以外の国においては期待しない方がよいでしょう。さらに、日常的に以下のような行動を心がけて犯罪に巻き込まれないように注意が必要です。
- ショルダーバッグや手荷物は車道と反対側に持つ
- 飲食店などで鞄から目を離さない
- ATMで現金を引き落とす時は、周囲に人がいないか気を配る、暗証番号を見られないようにする
- 飲食店でカード支払いをする際は、目の前で決済してもらう
- 貴重品や現金は小分けにする(治安の悪い地域では必須)
- 夜間ではよく後ろを振り返るなどといった警戒していることを周囲にアピールする
- そもそも夜間の外出は控える
( 2 ) 強盗・誘拐
日本でも強盗被害はありますが、治安の悪い国では特に注意が必要です。モノを奪われないようにしたり、取り返そうとしたりすると一瞬にして銃やナイフで命が奪われることもあります。強盗に遭遇した場合、「命」を最優先して行動が必要です。無駄な抵抗はせずに、相手の顔を見ずにお金が入っているところを指でさすなどして、命を守ることを優先させましょう。自宅などへの強盗だけではなく、通りを歩いていたら反対側から歩いて来た強盗にナイフを突きつけられて、ということもあります。普段から治安の悪いところはどこか調べ、避けるようにしてください。治安が良くない国の日本国大使館・総領事館ではこういった情報を公開していることもあります。また、国によっては偽警官(もしくは本物の警官)が職務質問と称して、お金を巻き上げるケースもあります。
身代金目的の誘拐についても一部の国では深刻です。犯人たちは突発的な誘拐を行うのではなく、事前にターゲットを定めて行動パターンを調べ上げて行うことが多いです。通勤・通学ルートを毎日変えるなどして、行動を悟られないように気をつけてください。あまり治安の良くない地域ではボディーガードを雇うことも必要かもしれません。
家に使用人を雇う国などもありますが、使用人に長期旅行や一時帰国などの予定を伝えないほうが良いこともあります。その間に使用人の家族や友人などと結託して泥棒に入られたケースも少なくありません。使用人を雇う場合は信頼できる筋から紹介してもらう、雇った後もあえて予定を伝えない、貴重品には鍵をかけたり長期旅行や一時帰国時には持ち出したりするなどといったことも必要になるでしょう。
( 3 ) テロや暴動
テロというとイスラム過激派をイメージされる方が多いと思いますが、イスラム教徒が多い国々だけではなくヨーロッパなどでもテロは発生しています。特に2010年代から急激に増加しているそうです。また、陰謀論者や思想団体などがテロなどを計画するケースもあり、先日ドイツでもクーデターを計画した極右団体のメンバーが逮捕されました。
テロについては、特に人がよく集まる空港、ターミナル駅、ショッピングセンターなどがターゲットとなりやすいです。発生した場合、爆弾や狙撃音が聞こえますので、伏せたり隠れたりといった身を守る行動をとりましょう。非常口がどこにあるかは常に確認しておいた方がよさそうです。また新規に事務所を開設される企業様においては、事務所の治安なども配慮した方がよいでしょう。
外務省のサービスには登録を(在留届とたびレジ)
旅券法第16条により、外国に住所又は居所を定めて3か月以上滞在する日本人は、最寄りの在外公館へ「在留届」を提出することが法律で義務付けられています。また、緊急事態発生時には、提出された「在留届」をもとに、大使館・総領事館が、安否確認・支援活動等を行います。それだけではなく、日常生活で気をつけた方がよい情報をメールで配信してもらえます。例えば、XX日にYYでデモが行われる、鉄道会社のストライキが予定されている、嵐などの天候不良が予想される、などです。この在留届はオンラインで提出・訂正などが可能です。
また3ヶ月未満の渡航の方は「たびレジ」をご活用ください。たびレジに登録すると、長期滞在者と同じように外務省および現地の在外公館からの安全情報がメールに配信されます。LINEとも連携できるようです。私も2015年にハンガリーのブダペストを旅行しようとしていたところ、シリアの難民が押し寄せて来たため駅が大混乱であるという情報が配信され、取り止めたことがあります。仮に別の国に長期滞在されていて近隣国に旅行するという場合であっても、このたびレジは便利ですのでご活用ください。
これ以外でも日本国大使館や総領事館、外務省の海外安全ホームページは非常に参考になりますので、ぜひご確認ください。
意外とあなどれないスマホのSNS機能
また日本国外限らずにスマートフォンにSNS機能があります(Androidについては機種にもよるかもしれません)。緊急時にこの機能を活用すると、最寄りの警察や消防、あらかじめ登録しておいたご家族などの緊急連絡先に、その時の本人の居場所と共に連絡がいくそうです。このSNS機能があって命が助かった方もいますので、国内外問わず是非ご活用ください。
保険加入も忘れずに!
最後にですが損害賠償保険や訴訟保険などの各種保険の加入も重要です。被害にあった弁償はもちろんのことですが、知らず知らずのうちに被害者ではなく加害者になってしまうこともあります。例えば人にぶつかって怪我を負わせてしまった、家のインターネットがハッキングされてセキュリティ事故の踏み台にされてしまったなどです。海外の場合、こういったことが訴訟沙汰になることも少なくなく、訴訟費用も日本よりも高額になることが多いです。したがって、海外に長期滞在される方は現地の各種保険に加入することをお勧めします。なお、他国旅行中や日本一時帰国中でもカバーされるのかなど、あらゆる可能性を考慮したほうがよいでしょう。保険会社にもよりますので加入時によくご確認ください。海外出張に行かれる方は、健康保険などと合わせた旅行保険に加入されると思いますが、こういったトラブルやリスクがカバーされるのかについてもよく確認した方がよいでしょう。
海外赴任や出張では安全・リスク管理は二の次にされてしまうこともありますが、すべてご本人やご家族の命や安全があってです。ご本人も企業様におかれましては、さまざまな観点でご配慮くださいますと幸いです。
出典・参考
Institute for Economics and Peace (2022). Global Peace Index 2022. https://www.visionofhumanity.org/wp-content/uploads/2022/06/GPI-2022-web.pdf.
外務省 (n.d.). 海外へ渡航される皆様へ. https://www.ezairyu.mofa.go.jp/.
外務省 (n.d.). 外務省 海外安全ホームページ. https://www.anzen.mofa.go.jp/.
株式会社WizWe (2021-2022). 人材グローバル化研修 (弊社・田中の駐在経験談や私の海外赴任コラムなど). https://www.smarthabit.net/enterprise/blog/tag/%E4%BA%BA%E6%9D%90%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E5%8C%96%E7%A0%94%E4%BF%AE.
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。