ドイツのストライキ事情
ストライキが多発するドイツ
ドイツでは日本とは比べものにならないほど、頻繁にストライキが発生しています。特に近年では、交通機関や病院、学校教員・ごみ回収業者など、公共および民間のサービス業におけるストライキがめだつようになっています。なぜドイツではストライキが頻発するのか、そしてそれに対して市民はどのように捉えているのでしょうか。以下、その背景についてまとめてみたいと思います。
ストライキが多い業種
2023年の統計によると、交通・公共サービス・その他民間サービス業においてストライキの発生件数が多いことが見て取れます。この年には、ドイツ鉄道 (Deutsche Bahn) による全国規模の列車運休が、数日間にわたって繰り返し行われました。主催は機関士労組 (GDL) で、主な要求は賃上げと労働時間の短縮でした。
社会の反応としては一部に不満の声もありましたが、ストライキの目的や正当性を理解する声が多数を占めていたように記憶しています。

出典:ドイツ連邦雇用庁の統計、連邦の就業者計算の結果より
2023年には、公共交通と空港のストライキも多発しました。こちらはヴェルディ (ver.di)という統一労組によるもので、インフレに伴う賃金引き上げを求めたストライキでした。コロナ禍に続くロシアのウクライナ侵攻の影響で、ドイツでは物価が大きく上昇し、それが背景にあります。
これらのストライキは全国の空港や都市の交通網が停止するという大規模なものでしたが、交渉を大きく進展させ、労組の影響力の強さを印象づける結果となりました。
日本とドイツの企業文化の相違
このように、ドイツでは年間で数百件規模のストライキが発生しています。これは、労働組合の力も強いこと、そして憲法で争議権が明確に保障されているという法的背景があるからです。結果として、社会的にもストライキに対する理解や共感が得られやすい土壌があります。
それに比べて、日本では組合の力が弱く、法的にもストライキに対する制約が多いため、社会的には「わがまま」「迷惑」といったネガティブな受け止め方をされる傾向があります。ストライキの件数は年間数件にとどまるため注目度は高いですが、企業文化として共同体的な考え方が根付いており、対話や交渉を前提とするドイツとは大きく異なります。
今年のストライキの状況(2025年)
ベルリンでは2025年の1月中旬から、すでに、ベルリンの市内公共交通 (BVG) とヴェルディによる5回にわたる警告ストライキが行われました。要求は主に賃金引き上げと労働条件の改善です。最近、6回目の交渉が決裂し、4月には無期限ストライキに突入するのではないかという懸念もありました。結果的には、外部から調停役を迎えることで合意に至ったようです。
「交渉が動き出したのは、何万人もの同僚が参加した警告ストが成功した後だった。最終的に、予想される物価上昇率を上回る賃上げ率と、一部のボーナスや労働時間の改善を盛り込んだ賃金協約を達成することができた」と、ヴェルディの会長兼チーフ交渉役であるヴェルネケ氏は述べています。このように、度重なるストライキが実際に成果をもたらしていることが分かります。

利用者としての視点から
正直なところ、利用者側の立場としては、こうしたストライキが度重なることで運賃の値上がりにつながるのでは…という不安もあります。ドイツでは労組の影響力が非常に強く、権利の主張ばかりがめだち、日常業務の改善—たとえば遅延の削減など—が後回しになっているように感じる場面もあります。
特に、学校教員によるストライキでは、子どもたちの教育機会が奪われるため、本末転倒ではないかという思いもあります。民主主義には「痛みが伴う」ことがしばしばありますが、それを受け入れるには社会全体の覚悟も必要です。
日本からドイツにお越しになる方へ
近年、特にコロナ禍以降は、ストライキの発生頻発度が高まっている印象があります。空港やドイツ鉄道など、全国規模の交通機関が影響を受ける可能性があるため、ドイツへの出張や旅行を企画されている方は、予備日を設けるなど、スケジュールにある程度の余裕をもたせることを強くおすすめします。
また、外務省が提供する「たびレジ」などの海外安全情報配信サービスを活用し、出発前にストライキ情報をチェックしておくと安心です。ストライキに惑わされず、充実したドイツ滞在を!
出典・参照
外務省. たびレジ
ver.di. Wir haben eine Einigung.
ドイツ連邦統計庁 (Statistisches Bundesamt). Working days lost through strikes or lockouts.
希代 真理子(きたい・まりこ)
メディア・コーディネーター
1995年よりドイツ・ベルリン在住。フンボルト大学でロシア語学科を専攻した後、モスクワの医療クリニックでインターン。その後、ベルリンの映像制作会社に就職し、コーディネーターとして主に日本のテレビ番組の制作にかかわる。2014年よりフリーランスとして活動。メディアプロダクションに従事。2020年にAha!Comicsのメンバーとして、ドイツの現地小学校を対象に算数の学習コミックを制作。2023年3月に初の共著書『ベルリンを知るための52章』刊行(明石書店)。