アメリカで注目のスタートアップ企業・ジュニ・ラーニング

二人の女性起業家が立ち上げたジュニ・ラーニング

 ジュニ・ラーニング(Juni Learning)は、ビビアン・シェンとルービー・リーの、二人のスタンフォード大学出身女性が立ち上げたスタートアップ企業です。シリコンバレーとボストンでそれぞれ生まれ育った二人は、通っていた高校でプログラミングを教える講座がわずかしか存在しない事に疑問を抱いていました。エンジニアリングの領域への女性のさらなる関与が必要だと考えていた二人は、スタンフォード大学在籍時に、コンピューターサイエンスに簡単にアクセスできるオンラインプラットフォームを構築することを思い付いたのです。

 やがて構想中のプラットフォームの対象を「コンピューターサイエンスをもっとも重要な教育科目としている子供達」にすることに定めた二人は共同でジュニ・ラーニングを設立、シリコンバレーの有力アクセラレーターのYコンビネーターのインキュベーションプログラムに申込んだのです。Yコンビネーターの審査を通過し、同社の投資バッチに組み込まれたジュニ・ラーニングは、直ちにプラットフォームの開発に着手し、2017年に正式にサービスをリリースしました。

対象は8歳から18歳の子供、中には5歳の子も

 ジュニ・ラーニングの対象者は8歳から18歳の、アメリカでK12と呼ばれている学年の生徒たちです。この対象以外の年齢層の人でも参加可能で、参加者の中には小学校入学前の5歳の児童や、50歳のシニアの人もいるそうです。

 ジュニ・ラーニングでは、初心者向けから経験者向けの9つのコースが提供されています。初心者向けコースでは、子供用プログラミングツールのScratchを使い、コーディングロジック、コーディングのシークエンス、ループやイベントなどのプログラミングの基本知識を学びます。コースの最終段階では、実際にゲームをプログラミングします。

 他にはHTML、CSS、JavaScriptを使ったウェブサイト作成コースや、プログラム言語のPythonを使ったグラフィックコンテンツ作成コース、データアナリシス・ビジュアライゼーション学習コース、Javaを使ったオブジェクト指向プログラミングコースなどの本格的な講座も提供されています。

 料金体系はシンプルで、一クラス3人のグループ講座が月額160ドル(約16,800円)、マンツーマンの週1講座が月額250ドル(約26,250円)、マンツーマンの週2講座が月額450ドル(約47,250円)となっています。なお、講座時間は1セッションあたり、いずれも50分となっています。

親たちが支払い、子供に投資

 ジュニ・ラーニングの講師には、現役のコンピューターサイエンス専攻の大学生や卒業生などが就いています。マンツーマンの週1クラスの場合、生徒一人を担当すると、講師が月謝の半額の125ドル(約13,125円)を受け取る仕組です。オンラインで勤務でき、物理的に拘束されないので、大学に在籍中の現役学生にとっても働きやすいようです。

 なお、創業者のシェンによると、サービス立ち上げ直後の2か月間で、子供の受講を希望する親が数えきれないくらい殺到してきたそうです。講座を受けるのは子供ですが、その支払いをする親が申込に殺到したという現象が、現在のアメリカの平均的な親が持つプログラミング教育への期待の高さを示しているでしょう。

 シェンは、ジュニ・ラーニングの経営は「非常に儲かっており」、今後も更なるコースの拡張を計画しているそうです。拡張予定のコースの中にはサイバーセキュリティに関する講座や、マシンラーニングなどの今どきの講座なども含まれているそうです。

「手に職」としてのプログラミング

 進化を続けるマシンラーニングなどのAI技術が、現在でもすでに多くのアメリカ人の仕事を奪い始めています。金融セクターでもローンオフィサーと呼ばれる融資審査担当者の仕事がAIによってリプレースされ始めています。保険の領域でもP2P保険などの分野でAIがリスク管理を行い始めています。リテールの世界でもAmazon Goなどのキャッシャーレス店舗がキャッシャーをリプレースし始めています。AIによる人間の仕事のリプレースは、既に現実の問題として多くのアメリカ人の前に現れ始めています。

 そうした中、IT系の仕事は未だに売り手市場が続いています。アメリカでも、ITの領域は人手不足が慢性化し、シリコンバレーのハイテク企業などでも常に人材を求めています。そのような現実を目の当たりにした親達、特にシリコンバレーの現場の事情を知る親達が、子供達が将来食いはぐれないための「手に職」としてプログラミングに注目しているのです。

 いつの時代も、親は子供の将来を気にするものですが、このトレンドは今後、世界規模で広がる可能性が高いです。そして、間違いなくこの日本にもやってくるでしょう。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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