アメリカで注目のFintech企業・株式売買手数料無料のロビンフッド

ロビンフッドというFintech企業

 シリコンバレーに拠点を置くロビンフッドというスタートアップ企業があります。ロビンフッドは株式やETFなどの金融商品の売買手数料無料を謳い、現在ユーザーを大幅に増やしています。2013年設立の同社は、これまでに4回のラウンドのファイナンスを行い、総額で1憶7,600万ドル(約199億円)もの資金を集めています。ベンチャーキャピタルなどの投資家による同社の評価は非常に高く、同社の時価総額は13憶ドル(約1,470憶円)に達しています。

 改めて言及するまでもありませんが、一般的に株などの売買を証券会社を通して行うと手数料をとられます。最近のアメリカでは、オンラインで売買するネット証券が一般的になっていますが、コストの安さを謳うネット証券でも、取引ごとに7ドルから10ドル程度の手数料がかかります。特に短期で頻繁に売買すると手数料がかさみ、投資家にとって少なくない負担となります。ところが、ロビンフッドを通して売買すると手数料が無料なのです。個人投資家を中心にロビンフッドへスイッチしている人が増えているのも不思議ではないでしょう。

ロビンフッドのビジネスモデル

 売買手数料無料を謳うロビンフッドですが、同社はどうやってお金を稼いでいるのでしょうか。まず、同社で株式を売買するには、同社の専用アプリをスマホにインストールする必要があります。アプリの通常バージョンは手数料無料で取引が出来ますが、売買資金を口座に入金し、その確認に3営業日が必要とされています。一方で、同社はロビンフッド・ゴールドオプションというプレミアプランも用意していて、月に6ドルから15ドルの会費を支払うと入金確認期間が必要なくなるほか、口座残高の最大二倍までの信用取引が可能になります(会費は口座残高に応じて決まります)。このロビンフッド・ゴールドオプションが、同社の主な収入源となっています。

 基本的な機能を無料で提供し、一定のオプションを求めるユーザーには課金するというPay as you goと呼ばれるビジネスモデルですが、ロビンフッドのビジネスモデルは、その優れたサンプルです。なお、関係者によると、ロビンフッド・ゴールドオプションは当初期待されていたよりも売れていて、同社の売上を「火にガソリンをふりかけた状態」にしているそうです。

既存の証券会社へのインパクト

 ところで、ロビンフッドの既存の証券会社へのインパクトは、どんな状況でしょうか。ロビンフッドの快進撃を受け、アメリカの大手証券会社のチャールズ・シュワブは、これまでに売買手数料の値下げを余儀なくされたといわれています。チャールズ・シュワブの手数料値下げを受け、ロビンフッドは歓迎の意を示し、「手数料を削減するとともに、最低残高1,000ドルの制度も廃止する事を期待します。売買手数料は、税金のように、一方的に課金される不条理なものです。金融市場への参入を阻んでいます」というコメントを出しています。

 既存の証券会社に加え、オンライントレーディング専用のネット証券へのインパクトも大きいです。Eトレード証券なども、現在の取引手数料を値下げせざるを得なくなる可能性が高いと関係者は指摘しています。最低残高制度についても、減額か廃止への圧力が強まる可能性が高いでしょう。

今後の展望

 既存のネット証券よりもさらに低いオペレーションコストをもって、ロビンフッドは売買手数料無料を実現しています。ローコストでオペレーションを行うスタートアップ企業をリーンスタートアップと呼びますが、ロビンフッドは証券取引という世界にリーンスタートアップとして参入し、古参企業の市場と顧客を奪取しています。ロビンフッドの2018年4月時点のユーザー数は400万人に達し、毎月14万人ずつ数を増やし続けているそうです。

 自社のビジネスモデルについて、ロビンフッドの共同創業者のバイジュ・バット氏は、「今まで金融業界に搾取されていた手数料という資金を、平均的なアメリカ国民へ還元する事なのです。そんな事を行っている事を、私自身非常に誇りに思っています」と、コメントしています。

 お金がない金融弱者に金融市場へのアクセスを与えたかったという同氏は典型的なミレニアル世代の人ですが、ロビンフッドの躍進は、アメリカのエスタブリッシュメントに対するミレニアル世代の反乱を象徴しているのかも知れません。持てる者と持たざる者、富める者と貧しい者との格差と分断が広がる今のアメリカで、持たざる者による静かな反乱として目に映るのは、多分筆者だけではないでしょう。ロビンフッドが展開している「富の弱者への再配分ビジネス」は今後、証券以外にも波及する可能性が高いでしょう。ロビンフッドの登場と躍進は、金融業界の新たな革命の始まりを告げています。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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