アメリカのマクドナルドがキャッシャーキオスクの導入を本格化

キャッシャーキオスクの導入が始まったアメリカのマクドナルド

 アメリカのマクドナルドがタッチスクリーン式のキャッシャーキオスクの導入を本格化させています。アメリカ・マクドナルドのスティーブ・イースターブルックCEOは、今後二年間でアメリカのマクドナルド8,000店舗にキャッシャーキオスクを順次導入し、2020年までに全店舗で配備すると発表しました。

 イギリス、カナダ、オーストラリア、フランスのマクドナルドの全店舗では、すでにキャッシャーキオスクが導入されていますが、遅ればせながらアメリカのマクドナルドでもキャッシャーキオスクが導入される事になったようです。一方で、ある調査によると、アメリカ人の78%がキャッシャーキオスクが導入されている飲食店を利用する事に否定的だと答えているそうです。

キャッシャーキオスクを導入する目的

 マクドナルドがキャッシャーキオスクを導入する目的について、イースターブルックCEOは、「消費者の選択肢を増やすため」であり、「人間の仕事をリプレースするため」ではないと説明しています。

 イースターブルックCEOによると、これまでのマクドナルドには店頭に並んでハンバーガーなどを購入するか、ドライブスルーで注文するかの二つのオプションしか存在していませんでした。キャッシャーキオスクを導入し、モバイルやタブレットなどからも注文出来るようにすることで消費者の選択肢を増やし、結果的にマクドナルドにより多くのマネタイズの機会を提供するというのです。

 また、キャッシャーキオスクを導入する事で、それぞれの顧客に合わせてレコメンデーションを行ったり、カスタマイズしたクーポンを提供することも可能になります。キャッシャーキオスクを導入した店舗では、実際に売り上げの増加が確認されているそうです。キャッシャーキオスク導入は、マクドナルドが掲げるインダストリー4.0の、シンボリックな実例にも見えます。

使い方は簡単なキャッシャーキオスク

 ところで、キャッシャーキオスクの利用方法は非常に簡単です。タッチスクリーンをタッチすると注文画面に進みます。最初に店内で食べるかテイクアウトかを選択し、それぞれの画面へ進みます。メニューはハンバーガー、飲み物、ハッピーセットなどのサブメニューに分かれていて、それぞれの商品が写真とともにタッチスクリーンに表示されます。

 商品は価格とカロリーとともに表示され、チーズやバターなどのオプションを付けることも可能です。ナゲットなどではお好みのソースを選ぶ事もできます。また、レコメンデーションは注文画面の随所に適時表示されます。

 支払いも簡単です。支払い方法はオンライン決済と店頭での現金・クレジットカード決済のいずれかが選択できます。オンライン決済はクレジットカード、デビットカード、Appleペイ、マクドナルド・ギフトカードが利用可能です。オンライン決済を利用する際は、キオスクの決済端末にカードをスワイプすれば決済完了です。店頭に並ぶ必要がないので大きな時間の節約になります。

 注文が終われば、あとは注文番号を呼ばれるのを待つだけです。キャッシャーキオスクからの注文はリアルタイムでマクドナルドのクルーに共有されるので、品物が提供されるまでの時間も相当短縮されます。

キャッシュレス化が進むアメリカの飲食業界

 ところで、アメリカではマクドナルドに限らず、飲食業界全体でキャッシュレス化が進んでいます。全米で28店舗を運営するファミリーレストランのテンダーグリーンズは、すべての店舗で現金による支払いを受け付けないキャッシュレス化を進めています。テンダーグリーンズでの支払いはクレジットカード・デビットカードか、Appleペイなどの電子マネーに限定されます。

 スターバックスも、本拠地シアトルで現金での支払いが出来ないキャッシュレス店舗の実証実験を開始しています。実験店舗ではクレジットカード・デビットカードか、スターバックスの電子マネーによる支払いしかできません。

 飲食店のキャッシュレス化は、注文時間の短縮とスタッフの削減というメリットを飲食店にもたらすほか、現金を管理する必要がなくなるというメリットももたらします。また従業員による不正を防止し、盗難や強盗などの被害を防ぐことにもつながります。

 一方で、アメリカの18歳から37際までの、ミレニアル世代と呼ばれる若い世代の三人に一人がクレジットカードを保有しておらず、飲食業界の完全キャッシュレス化のトレンドを危惧する声も聞かれます。

 いずれにせよ、アメリカのマクドナルドでは全店舗でのキャッシャーキオスクの導入が決定されましたが、完全キャッシュレス化・店舗無人化が実現することはないでしょう。アメリカの消費者の多くがキャッシャーキオスクに否定的であり、人間のクルーと対面しながら注文する事を選ぶからです。アメリカの消費者は、外食という行為については、今でも結構保守的なのかもしれません。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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