【アメリカ人の生活】アメリカ人が絶対に洗濯物を外で干さないワケ

先日、アメリカに短期滞在経験のある20代の息子から、アメリカで屋外に洗濯物が干してあるのを見たことがないが、一般的にアメリカでは洗濯物を外で干さないのか?そうだとすれば理由は何かという質問を受けました。確かに、アメリカ特にアメリカの住宅地では、日本のように洗濯物が屋外で天日干しにされている風景を見ることができません。今回は、アメリカ人はなぜ洗濯物を外に干さないのかについて、事情を説明します。

アメリカではまず絶対に見られない「洗濯物の天日干し」

アメリカを訪れたことがある人、特にホームステイなどでアメリカの一般家庭での滞在経験がある人の多くは、アメリカでは日本のように、洗濯物を屋外で天日干しにする風景を見ることができないことにお気づきになったことと思います。アメリカの多くの住宅地は日本よりも面積にゆとりがあり、一戸ごとに大きな庭が付いているのが普通ですが、なぜか洗濯物を干すスペースが庭のどこにも存在していないのです。

ロサンゼルスを含む南カリフォルニアなどは気候も良く晴れの日が多いので、雲一つない快晴の日などは、きれいに洗った洗濯物をさわやかな日差しの下で天日干しにしたくなる衝動に多くの日本人は駆られることでしょう。しかし、そんな南カリフォルニアを含むアメリカでは、洗濯物を屋外で天日干しにすることは、ほとんどタブーとされているのです。一体なぜなのでしょうか。

最大の理由はルールや契約で禁止されているから

アメリカ人が洗濯物を屋外で干さない最大の理由は、それがルールや契約で禁止されているからです。アメリカでは住宅地ごとにホームオーナーズ・アソシエーション(Homeowners association, 住宅オーナー組合、日本の自治会に近い)が組織されていて、管轄する地域の自治管理を行っています。ホームオーナーズ・アソシエーションはメンバーすなわち構成員である住宅オーナーから会費を徴収し、共有スペースのメンテナンスをしたり、メンバーが守るべきルールなどを決めています。そして、アメリカのほとんどのホームオーナーズ・アソシエーションは、メンバーが洗濯物を屋外で干すことを禁じています。

また、アパートなどの賃貸物件でも、ほとんどの賃貸借契約で洗濯物を屋外で干すことが禁じられています。アメリカでアパートに住む人の中には、洗濯物を室内のバスルームなどで干したりする人もいるようですが、外で干すことは基本的にしません。最悪の場合、契約違反で契約を解除されてしまうリスクを負っているからです。

「洗濯物の外干し」イコール「貧困」というイメージ

では、なぜホームオーナーズ・アソシエーションや賃貸物件の賃貸借契約は、洗濯物の外干しを頑なに禁じているのでしょうか。それは、アメリカでは「洗濯物の外干し」イコール「貧困」というイメージが一般に広く強く根付いているからです。ホームオーナーズ・アソシエーションは、メンバーが洗濯物を外干しすることで地域全体が「貧困地帯」であるとの世間の認識が広がるのを恐れ、実際に不動産価値が下落することを恐れ、洗濯物の外干しを禁止しています。同様に、多くの賃貸物件のオーナーも、不動産相場の下落つまり家賃収入が下がることを恐れるが故に、洗濯物の外干しを禁止しています。

「洗濯物の外干し」は、アメリカ人にとっては実際に不動産相場に影響を与えるほどマイナスのイメージとして定着しているのです。伝説的メキシコ系アメリカ人ロックシンガー、リッチー・ヴァレンスの短い生涯を描いた『ラ・バンバ』という映画がありますが、その中で貧しい主人公が思いを寄せる同級生の女の子が主人公の家を訪ねる場面があり、屋外に洗濯物が干された自宅の前を主人公が知らぬフリをして女の子と一緒に通り過ぎるシーンがあります。アメリカにおける「洗濯物の外干し」イコール「貧困」というイメージを、実に鮮やかに、かつ象徴的に表しているシーンだと思われます。

「貧困のイメージ」定着は現実の歴史の反映?

アメリカにおける「洗濯物の外干し」イコール「貧困」というイメージ定着の原因ですが、実際にアメリカ人、特にブーマーと呼ばれるシニア層アメリカ人の多くが、「洗濯物の外干し」イコール「貧困」という現実の歴史を、イメージとしてではなく実際に目の当たりにしたからだと思われます。

アメリカで洗濯乾燥機が普及し始めたのは戦後の1950年代頃からとされていますが、当時の洗濯乾燥機は高価で、誰でも買えるような物ではありませんでした。多くのアメリカ人の家庭では、『ラ・バンバ』の主人公が育った家庭のように、洗濯物を外干しにするのが一般的でした。やがて1960年代から1970年代にかけて洗濯乾燥機の普及が進み、所得の多い住宅地から次第に「洗濯物の外干し」の風景が消え始めたのです。そして、1990年代を迎えた頃には、アメリカから「洗濯物の外干し」の風景が見られなくなったのです。

現在、アメリカの洗濯乾燥機の世帯普及率は80%を超えており、「あるのが当然の家電」のひとつとなっています。実際に現在のアメリカでは、「洗濯物の外干し」をせざるを得ない人は「超」を付けざるを得ないほどのマイノリティとなっています。現在、日本の洗濯乾燥機の世帯普及率は40%程度(乾燥機付き洗濯機を含む)と見られていますが、アメリカ並みの80%以上に達した際には、日本でも「洗濯物の外干し」イコール「貧困」というイメージが一般化するかも知れません。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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