アメリカの伝統的な朝食「アメリカン・ブレックファスト」

一日を乗り切るエネルギーを蓄え、日々のタスクを円滑に遂行するために必要とされる朝食。オンラインサーベイサイトのスタティスタによると、毎朝朝食を必ず食べるというアメリカ人は回答者全体の35%で、三分の一程度にとどまりました。CDC(米国疾病予防センター)が行った調査でも、アメリカの高校生の四人に三人は朝食を毎朝食べておらず、調査開始以来最低を記録したそうです。アメリカ人にとって左程に重視されていない感がある朝食ですが、それでも食べている人はしっかり食べているようです。今回は、アメリカの伝統的な朝食についてお伝えします。

朝食を食べないアメリカ人

上述のCDCの調査は、いくつか興味深い事実を示しています。まず、朝食を毎朝食べない高校生の割合が年々悪化していることです。朝食を毎朝食べない高校生の割合は、2019年度の調査時点では66.9%でしたが、2年後の2021年度の調査では75%に悪化しています。また、女子生徒の方が朝食を毎朝食べない割合が高く、80.1%が朝食を毎朝食べないと答えています。人種別では、黒人学生の割合が高く、黒人学生の83.8%が朝食を毎朝食べないと答えています。

一方、日本の農林水産省が実施した調査によると、ふだん朝食を「ほとんど毎日食べる」と回答した人の割合は83.5%で、多くの日本人が朝食をほとんど毎日食べていることがわかります。朝食を定常的に食べることが習慣化している多くの日本人が、朝食を食べないアメリカ人が多いことに文化の違いを感じるかもしれません。

伝統的なアメリカの朝食「アメリカン・ブレックファスト」

移民の国アメリカには様々な人種や民族が存在し、それぞれ独自の文化や伝統に基づいた食文化を守っています。アメリカにおける「朝食」とは、そうした多様な文化に基づいて食されてきた多様な朝食文化の集合と言ってもいいかもしれません。一方で、筆者は現在のアメリカにおいても、アメリカ建国の歴史とともにアメリカに受け継がれてきた伝統的な朝食が存在すると考えています。多くのアメリカ人が「アメリカン・ブレックファスト」(American Breakfast)と呼ぶ朝食です。
 
筆者は、高校時代の前半をカリフォルニア州北部のサンタ・クルーズという風光明媚な街で過ごし、アメリカ人ホストファミリーの家にステイさせてもらいました。結婚後、ワシントン州シアトルからサンタ・クルーズへ移住してきたホストマザーはドイツ系移民の末裔でしたが、コロニアル時代のアメリカの伝統を守る、典型的な保守的アメリカ人女性といった感じの人でした。そのホストマザーは、サンクスギビング(感謝祭)やクリスマスのイベントの翌朝にはほとんど必ず、朝食に伝統的な「アメリカン・ブレックファスト」を用意してくれました。

ベーコン、ソーセージ、卵とパンケーキのコンビネーション

そんなホストマザーが用意してくれた朝食は、必ずと言っていいほど毎度同じメニューで構成されていました。まず欠かせないのがベーコンまたはソーセージです。特にベーコンはベーコン好きのアメリカ人には欠かせないもので、ベーコン抜きの「アメリカン・ブレックファスト」などは味噌汁のない日本の朝食のようなものです。カリカリに焼かれたベーコンは、卵やパンケーキとなどとのコンビネーションが抜群で、いかにもアメリカの味という感じです。

ベーコンと並んで欠かせないのが卵です。卵は通常、目玉焼き、オムレツ、スクランブルエッグなど食べる人の好みに応じて料理されますが、筆者のおすすめは卵を片面だけ焼いた「サニーサイドアップ」(Sunny Side Up)です。半生の状態で供される黄身がとろりとベーコンやパンケーキにからんで、独特の食感を与えます。

 ベーコン、卵、ソーセージなどとともに供されるのがトーストやパンケーキなどの炭水化物です。時にはワッフルやビスケットなどが提供されることもありますが、多いのはパンケーキでしょう。ふわふわ・サクサクのパンケーキにバターをたっぷりと乗せ、程よい甘さのシロップをかける。カリカリのベーコン、とろとろのサニーサイドアップ、そしてパンケーキのすべてにシロップを多めにかけ、フォークに刺して口へ運ぶ。これぞアメリカだという味を楽しめること間違いないでしょう。

伝統的な「アメリカン・ブレックファスト」は文化?

そんな「アメリカン・ブレックファスト」ですが、現在のアメリカの家庭で毎日のように食べられているわけではありません。上述の通り、アメリカ人の多くは朝食を食べず、食べたとしても家でトーストを焼いたり、シリアルに牛乳をかけて食べたりして朝食を簡単に済ます人が多いです。ご紹介させていただいた「アメリカン・ブレックファスト」とは、アメリカの日常的で一般的な朝食であるというよりも、アメリカの歴史や伝統を伝え・紡いでゆくための「文化」というべきかも知れません。

日本ではお正月におせち料理や端午の節句にちまきや柏餅を食べ、日本の歴史や伝統を味わう風習がありますが、「アメリカン・ブレックファスト」はそれらと同様の、アメリカの歴史や文化を味わうべきものなのかも知れません。そしてこのアメリカの「伝統料理」は、アメリカが今後どのような国になろうとも、決してなくなることはないと筆者は固く信じています。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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