アメリカの「リベラル」とは一体どういう人達か?

アメリカの社会的・政治的な話題を取り上げる際に、しばしば登場してくるのが「リベラル」という人達です。最近のアメリカでは、ジョージ・フロイド氏圧殺事件に端を発するBlack lives matter運動や、妊娠中絶問題、あるいはLGBTQといった、世論を二分する大きな各イシューにおいて、「リベラル」の存在が特に際立ってきています。今回は、そんなアメリカの「リベラル」について解説します。

アメリカにおける「リベラル」

ハーバード大学教授で政治・歴史学者のルイス・ハーツによると、アメリカにおける「リベラル」(Liberal)とは、「言論の自由」(Freedom of speech)、「報道の自由」(Freedom of the press)、「信教の自由」(Freedom of religion)、「政教分離の原則」(Separation of Church and State)、「適正な法的手続きを受ける権利」(Right to due process)、「法の下の平等」(Equality before the law)などの原則・価値観を自らの信条の基礎としている人達です。

アメリカのリベラルの多くは、特に「適正な法的手続きを受ける権利」および「法の下の平等」を重視する人が多く、実際に現在進行中の「女性の妊娠中絶を行う権利」やBlack lives matter運動における「ジョージ・フロイド氏の人権擁護」、または「LGBTQの人権擁護」といった各種のムーブメントの原動力としています。また、リベラルの多くは「現状維持よりも変化」を求め、また人種や性別などによる「不平等」の放置を許さない人が多いとされています。

リベラルの多くは民主党支持者で、大学や大学院卒のインテリが多い印象です。日本でLGBT理解増進法成立を強烈に後押ししたと噂されている某駐日米国大使などは、インテリリベラルの極端な象徴例といっていいかもしれません。

政治体制は「大きな政府」が基本のリベラル

リベラルは、対立層である保守層(Conservatives)と比較して、その政治体制も大きく違っています。アメリカの伝説的な大物リベラルといっていいフランクリン・ルーズベルト大統領は、政府の役割について、「政府は、持てるすべての権限と資源を用いて、新たな社会問題を新たな社会管理手法とともに対応する絶対的な義務を負っています。一般的な国民が経済的・政治的に自立し、自由と幸福の実現を担保しなければなりません」と、不況時におけるケインジアン型財政アプローチの必要性を説いています。

あくまでも一般論ですが、伝統的にアメリカ民主党は、ケインジアン型の政府による大型財政出動をメインとする「大きな政府」を好む傾向があります。一方、対する共和党は、伝統的にレッセフェール型の「小さな政府」を好む傾向があります。この構図は、今日におけるバイデン民主党政権においても変わっていません。

アメリカの「リベラル」どこに多く住んでいる?

そんなアメリカの「リベラル」ですが、基本的には「ブルーステート」と呼ばれる民主党支持者が多い州に多く住んでいます。具体的には、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の西海岸州や、バーモント州、マサチューセッツ州、メリーランド州、ニューヨーク州などのアメリカ東部の主要州、およびイリノイ州、コロラド州、ハワイ州などにも多くのリベラルが住んでいます。総じて見るに、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコといった、アメリカを代表する主要都市を中心に、多くのリベラルがコミュニティを形成している感があります。

筆者は、高校時代をサンフランシスコ北部にあるマリン郡という比較的裕福なエリアで過ごしましたが、友人のほとんどは民主党支持の家庭の子供でした。特に、医学部への進学を希望する優秀な学生などは、必ずと言って良いほど民主党支持の家庭出身でした。あれから長い時間が過ぎましたが、現状は今もそれほど変わっていないと思われます。要するに、アメリカのリベラルは、アメリカの主要都市部かその近郊の住宅地に住む富裕層の出身者が多いのです。

融通が利かない「リベラル」

高学歴のインテリで、「適正な法的手続きを受ける権利」および「法の下の平等」を重視するアメリカの「リベラル」ですが、あえて欠点を挙げるとすれば、総じて「融通が利かない」ことでしょう。日本でLGBT理解増進法成立を後押ししたとされる某駐日米国大使は、シカゴ出身の名門ノースウェスタン大学卒業のインテリですが、自分の信念を押し通す性質が強く、「融通が利かない」とされています。その駐日米国大使は極端な例ですが、筆者が見たところ、リベラルなアメリカ人であればあるほど、総じて自分の主張を曲げない、「融通が利かない」人であるように思われます。

もちろん、すべてのアメリカのリベラルが融通が利かないというわけではありません。筆者が知るアメリカのリベラルの多くは非常に頭が良く、知識や常識が備わっている人がほとんどです。ただし、総じて自分の信念を「貫きすぎる」ように見受けられ、その点がある種の「融通の利かなさ」に繋がっているのかもしれません。いずれにせよ、これは日本や他の先進国を含めた各国の「リベラル」においても、押しなべて共通していることなのかもしれません。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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