ユダヤ教とはどういう宗教か?

前回の「ユダヤ人とはどういう人達か? 」という記事で、ユダヤ人とは「ユダヤ教を信仰する者。広義な意味では、継承または改宗によりヘブライ聖書(旧約聖書)の教えと伝統を実践し、世界各地に存在するユダヤ人集団に属する者」であると説明しました。現在、世界にはおよそ1,470万人のユダヤ人が存在していますが、彼彼女らが信仰する「ユダヤ教」とは、一体どのような宗教なのでしょうか。

世界最古の宗教のひとつ

ユダヤ教(Judaism)は、今から4,000年前に始まった世界最古の宗教のひとつとされている宗教です。開祖はアブラハム(旧名アブラム)で、アブラハムが神から受けた数々の啓示をもとに伝承構築型教義をスタートさせています。ユダヤ教における最初の「預言者」ともされるアブラハムによると、「神」は唯一であり「絶対」です。この、「神は唯一であり絶対である」とする基本的教義をベースにしている宗教には、ユダヤ教のほかにキリスト教やイスラム教があります。

なお、キリスト教もイスラム教も、ユダヤ教の経典である「ヘブライ聖書」を経典としています。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は「アブラハムの宗教」というカテゴリーにおいては仲間であり、いずれも同じ「神」を信仰しています。「神」を、ユダヤ教では「YHWH」(ヤハウェ)、キリスト教では「God」、イスラム教では「アッラー」と呼んでいます。

最重要経典は「トーラー」

ユダヤ教における最重要経典は「トーラー」(Torah)です。ユダヤ教では「ヘブライ聖書」を「タナハ」(Tanakh)と呼びますが、その「タナハ」に収載された最初の5書が「トーラー」です。なお、「トーラー」のことをキリスト教では「モーセ五書」と呼んでいます。具体的には、「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」です。

「トーラー」は、有名な天地創造の物語、アダムとイブの楽園追放の物語、ノアの箱舟やバベルの塔の物語、モーセによるエジプト脱出の物語などの壮大なストーリーが描かれているだけでなく、「レビ記」「民数記」「申命記」などにユダヤの民が守るべき生活規範やルールが詳細に書き綴られています。なお、ユダヤ人は豚肉を食べないことで有名ですが、食べない理由はレビ記11章7節で「(豚は)まったく反芻しないから、汚れたものである。これらの動物の肉を食べてはならない」(新共同訳聖書)と禁じられているからです。

ところで、「タナハ」をキリスト教では「旧約聖書」と呼んでいますが、これは、クリスチャンの立場から見た「タナハ」の歴史的意味を表現するために、クリスチャンが勝手に名付けたものです。ユダヤ教の立場では「タナハ」は「タナハ」であり、「旧約聖書」などと勝手に呼ばれてしまうのは不愉快この上ないでしょう。「タナハ」をどうとらえ、どう扱うかという点が、ユダヤ教とキリスト教を分ける大きなポイントのひとつであると言っていいでしょう。 

ユダヤ教における「メシア信仰」

さて、ユダヤ教の別の大きな特徴として「メシア信仰」があります。「メシア信仰」とは、「いつか神がダビデの家系に繋がるメシア(救世主)を地に送り、ユダヤの民を困難から救い、王国を建立する」という信仰です。「メシア信仰」の根拠となっているのが上述の「タナハ」です。「タナハ」には、メシア到来を預言する預言者たちの言葉があちこちに記されています。以下にいくつか例を挙げてみます。

王笏はユダから離れず、統治の杖は足の間から離れない。ついにシロが来て、諸国の民は彼に従う。創世記49:10

彼は若枝のように、乾いた地から出た根のように、彼の御前に育つであろう。彼には姿も、顔立ちの良さもない。私たちが彼を見る時、私たちが望むような美しさは、彼にはない。
イザヤ 53:2

エフラタのベツレヘムよ、お前はユダの氏族の中でいと小さき者。お前の中から、わたしのために、イスラエルを治める者が出る。彼の出生は古く、永遠の昔にさかのぼる。ミカ 5:2

ページに限りがあるのでこの辺にしておきますが、「タナハ」には、来るべきメシアがどこでどのように生まれ、どのように育ち、どのような扱いを人々から受け、どのように死んでゆくかが詳細に預言されています。そして、紀元前6-4年ごろベツレヘムという小さな町で生まれた大工の息子イエスが、「タナハ」が預言したメシアであると信じる人々が、後の世にクリスチャンと呼ばれるようになった人達です。一方、ユダヤ教を信仰している多くの人は、イエスがメシアであるとは認めていません。ユダヤ人の多くは、未だにイエスではない本物のメシア到来を待ち続けているのです。

イエスがメシアであると認めるユダヤ人も

なお、最近はイエスがメシアであると認めるユダヤ人が増えてきています。メシアニック・ジュー(Messianic Jew)と呼ばれる人達です。なお、現代においても、ユダヤ人にとってイエスがメシアであると認めることは大きなタブーです。イエスがメシアだと公言するだけで顔に唾を吐きかけられることがあるそうです。

筆者は前に、イエスをメシアと認めるまでのアメリカのユダヤ人家族の物語を綴った『ユダヤ人の裏切り 』という本を翻訳しましたが、その本の中では、イエスをメシアだと認めた主人公の家族は、最終的にはユダヤ人コミュニティから半ば追放されてしまいます。イエスをメシアだと認めることは、同時にユダヤ人としてのアイデンティティを失うことになるのだと翻訳をしながら強く思わされました。ユダヤ教とキリスト教の間の溝は、未だ深くて大きいのです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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