アメリカ脚本家組合がストライキを行っているワケとは?

アメリカ脚本家組合(Writers Guild of America, WGA)が、今年2023年5月2日午前0時1分からストライキに突入しました。アメリカ人が好きなテレビコンテンツにレイトナイトショー(Late night show)がありますが、WGAのストライキにより、一部のレイトナイトショーに番組変更や遅延などの影響が出始めているそうです。そもそもWGAがストライキを行っているワケは何でしょうか。本記事はその詳細についてお伝えします。

ストライキの最大の理由は「待遇の改善」

古今東西、労働者がストライキを行う最大の理由は「待遇の改善」です。WGAも同様に、交渉相手であるAMPTP(Alliance of Motion Pictures and Television Producers, 映画・テレビ制作者同盟)に対し、待遇の改善を求めてストライキを行っています。では、WGAは具体的に何を求めているのでしょうか。

まずは発注期間です。これまでの慣習では、例えばテレビ番組制作者は、一つのドラマシリーズを一シーズンごとに20から24エピソードのセットで脚本を作るよう脚本家に発注していました。その脚本の制作期間中、脚本家は最低10カ月報酬を得られ、生活の原資を稼ぐことができました。

ところが、視聴者の視聴パターンが地上波放送からストリーミングプラットフォームへ移行した今日、ストリーミングプラットフォームによるコンテンツ配信が主流となりました。ストリーミングプラットフォームでは多くのコンテンツが必要となる一方で、ドラマなどのエピソード数が8から10程度と少なくなり、結果的に脚本家へ依頼する業務量もこれまでの半分以下になってしまいました。WGAは、発注期間の短縮による逸失報酬の補填をAMPTPに求めているのです。

Residualの問題も

WGAはまた、いわゆるresidualの問題も提起しています。Residual(リジデュアル)とは、テレビ番組の制作に携わった俳優、監督、脚本家などに支払われる報酬のことです。一般的には番組が再放送されるたびに支払われるので、residualは長らく脚本家の生活を支える重要な収入の一部となってきました。過去のアメリカのテレビ放送では、特定のシーズンになると毎年同じテレビドラマなどが繰り返し再放送されていたため、residualは脚本家にとってのストック収入となっていたのです。

ところが、視聴者の視聴パターンが地上波放送からストリーミングプラットフォームへ移行した結果、様相が大きく変わってきてしまいました。Netflixなどのストリーミングプラットフォームも、地上波放送局と同様に、番組制作に携わった俳優、監督、脚本家に対してresidualを支払うのですが、WGAによると、ストリーミングプラットフォームのresidualは計算アルゴリズムがブラックボックス化されていて、金額も(地上波放送局などに比べて)著しく少額なのだそうです。

Netflixから受け取るresidualでは生活できない?

脚本家と同様にresidualを重要な収入の一部としている俳優たちの多くも、Netflixから受け取るresidualの額の低さに驚いています。「Criminal Mind」(クリミナル・マインドFBI行動分析課)は、2005年9月から2020年2月まで15シーズンに渡って放送された人気犯罪サスペンスドラマですが、そのクリミナル・マインドにチョイ役で出演した俳優のウィットニー・モーガン・コックスさんは、次のようにコメントしています。

「クリミナル・マインドに出演したら、(地上波放送局から)それなりの金額のresidualを小切手でもらっていたんだ。クリミナル・マインドがケーブルテレビに移った後も、それなりの金額の小切手をもらっていた。だけど、クリミナル・マインドがNetflixへ移ったら、小切手がまったく送られてこなくなった。本当に、まったく送られてこなくなってしまったんだ」

Netflixから受け取るresidualの額が1ドル未満という人は相当に多いらしく、ハリウッドのお膝元の街カルバーシティには、Netflixから受け取ったresidualの小切手の額面が1ドル未満の人に無料でワンドリンクを進呈するバーもあるそうです。

ライターズルームの問題も

WGAはさらに、いわゆるライターズルームの問題も提起しています。ライターズルーム(Writers’ room)とは、番組ごとに編成されるライター集団の組織および共同作業する場所のことです。アメリカのテレビ番組制作現場では、伝統的に複数の脚本家がチームを編成し、共同で脚本づくりをしてきました。一般的に番組のエピソードが多いほどライターズルームの規模は大きくなり、例えば24エピソードのドラマなどでは、10人以上の脚本家でライターズルームが構成されるそうです。

ライターズルームは、キャリアを歩み始めた若手の脚本家がスキルを磨く「若手育成の場」としても機能してきました。ベテランの脚本家と一緒に仕事をし、各種の技術やノウハウを継承できる、若手の脚本家にとっての貴重なキャリアパスでもあったのです。

ところが、最近のテレビ番組・映画製作の現場では、従来型のライターズルームではなく、より少ない人数で構成されたミニ・ルーム(Mini room)を採用する動きが広がっており、WGAがそれに対して強く反発しています。ミニ・ルームが拡がることで脚本家の就労の場が少なくなり、若手脚本家のキャリアパスが失われてしまうのです。

WGAはまた、制作サイドによるAIの利用制限などについても申し入れを行っていますが、労使が和解する兆しは今のところ見えていません。ハリウッドは私が大好きなアメリカの街のひとつですが、ハリウッドファンの一人としても、早期の解決を望むばかりです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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