三年ぶりのアメリカ・カナダ旅行で気づいたこと

先日、コロナ明けで三年ぶりにアメリカとカナダへ旅行してきました。コロナの前後で大分雰囲気が変わったであろうと想像はしていましたが、やはり驚かされたことがいくつかありました。本記事ではそれらについて、筆者が感じたままを書いてみたいと思います。

コンタクトレス・バー

まず驚いたのがコンタクトレス・バーです。今回は羽田からミネアポリスを経由してカナダのカルガリーへ出かけたのですが、ミネアポリスでのトランジットの待ち時間が5時間近くありました。旅行するときには旅先の酒を飲むのを密かな楽しみにしている筆者は、どこかで地元のクラフトビールが飲めそうな店はないかと探したところ、搭乗ゲートに隣接しているカウンダーベースのバーがあるのを見つけました。

これはいいやと思ってカウンターに腰を下ろし、注文しようとしたところメニューが見当たらない。メニューがない代わりにカウンターの卓上にQRコードが印刷された四角いプレートが置かれている。これは何だと思ってそのプレートを見つめていたらウェイトレスの若い女性がやってきて、そのQRコードをスマホのカメラで読み込むとメニューが表示されるので、それで注文してくださいと言う。筆者が操作に手間取っているのにヤキモキしたのか、代わりにスマホを操作して画面にメニューを表示してくれたのでした。

あとは画面の指示に従い、決済用のクレジットカード情報を入力すると注文できるようになり、そのまま地元のビールを注文。注文から3分くらいでウェイトレスがビールをテーブルに運んできてくれたのでした。客と店のスタッフとの接触機会を可能な限り少なくした「コンタクトレス・バー」は、コロナ禍で対面による接客を忌避する消費者ニーズから生まれたものと推察されますが、何となく寂しい感じがしたのは否めませんでした。後で知ったことですが、このコンタクトレスオーダリングシステムは、現金の管理を嫌がる飲食店のオーナーの意向もあって普及が進んでいる側面もあるそうです。

コンタクトレス・バーに設置されたQRコード。筆者撮影

物価

次に驚いたのが物価です。経由地のミネアポリスは無論、目的地のカナダ・カルガリーでも物価が高いのに驚きました。食料品やエネルギーなどの価格が上昇するとともに、家賃なども相応に上昇しているようです。IMF(国際通貨基金)の統計によると、カナダの2022年度の物価上昇率は6.80%で、ここ30年で最大となっているそうです。アメリカの高金利政策の影響をモロに受けているといった感じで、カルガリーの地元のニュースでも、契約更新時にアパートの家賃を上げようとする家主ともめる店子が増えてきていると報じていました。

また、レストランなどの飲食店の値段も高いと感じました。カルガリーでも地元のクラフトビールを飲むのを楽しみにしていましたが、これが軒並み高い。キャビン・ブリューイングという地元のブリュワリーが造るクラフトビールは、苦みが絶妙に心地よい完成度の高いペールエールですが、これが12オンス(約354ミリリットル)で9.50カナダドルもする。これにチップを加えると11.40カナダドルとなり、日本円にすると1,140円になります。いくら地元で評判のクラフトビールだからといって、日本のビールの小瓶のサイズで1,140円もするのは高すぎる。

そういえばミネアポリス空港のコンタクトレス・バーで飲んだビールは7.50米ドルでしたが、チップ20%を加えた勘定は9ドルでした。円安の今は日本円にすると1,260円となり、やはり高く感じます。

カルガリーのスーパーで売られている日本のお菓子。筆者撮影

キャッシュレス化が進むカナダ

また、カナダでキャッシュレス化が相当進んでいるのにも驚かされました。現地在住の娘にカルガリー大学のキャンパスを案内してもらったのですが、学内のフードコートで営業している飲食店のほぼすべてがキャッシュレスペイメントしか受け付けていません。学内に設置されている飲み物の自動販売機で水を買おうとしたところ、どれも現金は利用できない。結局のところ、カナダ滞在期間中、使った現金はわずか15カナダドルだけでした。

カナダの新聞「ナショナルポスト」によると、カナダ人のキャッシュレス化率は90%以上に達しており、今や現金を使う人は完全にマイノリティになっているそうです。また、カナダのスーパーマーケットの四分の一が現金を完全に受け付けておらず、キャッシュレス決済にのみ対応しているそうです。

前にキャッシュレス化が進むと、クレジットカードが持てない人や銀行口座がない人が支払いができなくなり、「決済難民化」する恐れがあるというアメリカのニュースメディア記事を読んだことがありますが、同様の懸念はカナダにもあるようです。とはいうものの、フードコートに並んで注文した料理を受け取る際に、いかにも手慣れた手つきで次々にキャッシュレス決済をしてゆく学生たちを眺めつつ、カナダのキャッシュレス化が今後さらに進むのは間違いないと確信させられたのでした。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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