リモートワークが進むアメリカ、主要都市のオフィス空室率が上昇

コロナのパンデミックの影響によりリモートワークが進むアメリカで、主要都市のオフィス空室率が上昇しています。大手警備会社キャッスルシステムズが行った調査によると、2022年10月12日時点のニューヨーク市のオフィス稼働率は47.8%で、全オフィススペースの半分以上が空室という状態でした。現地メディアは「オフィス・アポカリプス(黙示録)」だと報じていますが、状況はどうなっているのでしょうか。

アメリカ人労働者の四人に一人がリモートワーカー

アメリカの人材紹介会社Laddersによると、コロナのパンデミック前は4%だったアメリカ人労働者のリモートワーカーの割合が、2022年12月末時点で29%に上昇したそうです。今やアメリカ人労働者の四人に一人以上がリモートワーカーですが、リモートワークを加速するトレンドは今年2023年度も続くと見られており、リモートワーカーの割合はさらに上昇するものと見られています。

別の調査では、リモートワーカーの97.6%が今後もリモートワークを続けたいと、また97%がリモートワークを人にお勧めすると答えており、リモートワークへのシフトは、アメリカ人労働者全般のコンセンサスとなっているようです。

リモートワークの普及で各都市のオフィス街が「廃墟」に

リモートワークの普及でもっとも深刻な影響を受けているのが各都市のオフィス街です。特にハイテク系企業のリモートワークが進むサンフランシスコでもオフィス空室率が上昇し、コロナのパンデミック前はわずか4%だった空室率が、2022年12月末時点で26%に上昇しています。なお、サンフランシスコの全労働者の46%が自宅でリモートワークをしているとされています。

また、企業の側でも積極的にリモートワークを推進し、オフィススペースを削減する動きが始まっています。ニューヨークと並んでアメリカでもっともオフィス賃料が高いとされているサンフランシスコですが、これまでにセールスフォースドットコム、Twitter、メタ、AirBnB、Lyft、PayPalなどの大手ハイテク企業がサンフランシスコから撤退またはオフィススペースを大幅に削減しています。特にサンフランシスコ最大の雇用主であるセールスフォースドットコムはリモートワークに非常に積極的で、同社の従業員のリモートワーク率は50%にも達しています。

セールスフォースドットコムの創業者でCEOのマーク・ベニオフ氏は、「もう過去の状態に戻ることはないだろう。誰もがそのことを知っている」とコメントし、リモートワークへのシフトが必然であると示唆しています。

都市部自治体の税収にもダメージ

オフィススペースの空室率の上昇は、そのまま都市部自治体の税収にもダメージを与えています。特に空室率の上昇は不動産価格の下落をもたらし、それにより自治体が受け取る消費税や固定資産税も減少します。アメリカ自治体連合の試算によると、2022年会計年度においては、自治体平均で消費税税収が2.5%、税収総額で4%のマイナスになるとしています。実際にアトランタ市においては、2022年度の税収が5.7%減少しています。

シアトル市のブルース・ハレル市長は、「厳然たる事実として、かつて人々が賑やかに闊歩していたダウンタウンの様相が戻ってくることはないということだ。パンデミック前の景色を取り戻すことはできないだろう」とコメントし、パンデミックとリモートワークにより自治体にとっての状況が一変したことを認めています。今後アメリカ人労働者のリモートワーク化がさらに進めば、各自治体が受け取る税収もさらに減少する可能性があります。

オフィススペースを住宅に転換?

上昇を続けるオフィススペースの空室率の問題について、セールスフォースドットコムのマーク・ベニオフCEOは、「これまでのサンフランシスコは均質すぎた。街全体の再構築が必要だ」とコメントし、市内に企業を誘致するだけでなく、ホテル、学校、住宅などを誘致して活性化することを提言しています。

実際に、オフィススペースを住宅に転換し、住宅不足解消の一助にしようというアイデアが出されています。しかし、大手不動産仲介会社CBREグループの調査によると、2016年以降アメリカ全国で行われたオフィススペースから住宅への転換プロジェクトは、わずか112件にとどまったそうです。2022年度単年では、わずか8件にとどまっています。オフィススペースを住宅に転換しようというアイデアは出されるのですが、実際に実現するにはいくつものハードルを越える必要があるようです。

ニューヨーク大学ビジネススクールのアーピット・グプタ教授の試算によると、2020年1月から2022年3月までの27カ月間で、アメリカ全土の不動産価値が総額で4530億ドル(約58兆8900億円)も失われたそうです。グプタ教授は、この状況をまさに「オフィス・アポカリプス(黙示録)」であると断じていますが、聖書が伝える黙示録のような終末的な状況が、アメリカ各地の主要都市において実際に始まりつつあるのかも知れません。アメリカのリモートワークへのシフトのトレンドと、各都市のオフィス街の状況については、今後も注視してゆく必要がありそうです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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