エホバの証人とはどういう宗教か?

「モルモン教とはどういう宗教か?」という記事でモルモン教について説明しました。アメリカで一定のプレゼンスを確保しているモルモン教ですが、アメリカにはモルモン教と並んで一定の知名度を得ているもう一つの新興宗教があります。エホバの証人と呼ばれる、その新興宗教について解説します。

エホバの証人という新興宗教

エホバの証人(Jehovah’s Witnesses)は、1870年代にチャールズ・ラッセルがペンシルバニア州ピッツバーグで立ち上げた聖書研究運動に端を発するキリスト教風の新興宗教です。ラッセルは1881年に「シオンものみの塔冊子協会」を宗教法人化し、現在のエホバの証人の原型となる組織をスタートさせています。

エホバの証人の「エホバ」とは、旧約聖書に記された神の名前とされるヤハウェを英訳したものです。エホバの証人を日本語に訳すとシンプルに「神様の証人」といった感じになるでしょう。

エホバの証人も、モルモン教と同様にキリスト教をベースに誕生しています。キリスト教をベースにしているのでキリスト教系列の宗教に見られがちですが、これもモルモン教と同様に、基本的な教義の違いからカトリック教会、正教会、プロテスタント教会諸宗派といったキリスト教の主流層から、エホバの証人はキリスト教ではないとされています。

「輸血拒否」で有名なエホバの証人

さて、エホバの証人と言えば有名なのが「輸血拒否」でしょう。エホバの証人は、旧約聖書創世記9章やレビ記17章の記述を根拠に輸血を頑なに拒否しています。エホバの証人は、実際に医療現場で輸血拒否を巡るトラブルを頻発させています。日本でも、エホバの証人夫婦が交通事故にあった息子の輸血を拒否し、死に至らしめた痛ましい事件が起きています。

また、クリスマスやイースターといった伝統的なキリスト教の行事を全く祝わないのもエホバの証人の特徴です。エホバの証人の組織を運営している統治体によると、聖書にはクリスマスを規定する記述がなく、12月25日をキリストの誕生日とすることはできない。よってクリスマスは神に認められていないとしています。

さらに、「兵役拒否」や「格闘技イベントなどへの参加の拒否」、あるいは「国歌斉唱の拒否」もエホバの証人の有名な特徴です。特に兵役拒否を巡っては、韓国などの徴兵制度がある国においてコンスタントにトラブルを起こしています。

問題が少なくないエホバの証人の独自の「新世界訳聖書」

エホバの証人は、聖書研究運動に端を発する宗教だけあって、聖書研究には非常に熱心です。信者の多くも聖書を熱心に学ぶ勉強家が多いとされています。一方、エホバの証人が独自に翻訳した聖書「新世界訳聖書」(New World Translation)には、問題が少なくないとされています。

聖書は通常、ネストレ=アーラントやビブリア・ヘブライカなどを底本に、ギリシャ語およびヘブライ語に精通した聖書学者で構成された翻訳委員会が各国の言語に翻訳して刊行されます。例えば、世界的な権威ある聖書である「新欽定訳聖書」(New King James Version)の最新版の翻訳には130人もの聖書学者が実名で参加しています。しかし、エホバの証人の「新世界訳聖書」の場合、翻訳委員は「匿名」で参加人数も「非公開」です。聖書の権威性と信頼性という点において、「新世界訳聖書」は出発時点ですでに問題があるのです。

「新世界訳聖書」はまた、翻訳者による意図的な翻訳が多いとも指摘されています。例えば、エホバの証人もモルモン教と同様にキリスト教の基本的な教義である三位一体を認めていません。それゆえ、一般的な聖書においては普通に記述されている三位一体を肯定する箇所を意図的に改変しています。また、キリストの十字架を「拷問の杭」と訳したり、キリストの神性を一々否定したり等々、「一般的なキリスト教」にとっては絶対に容認できないものになっています。

アメリカでは絶対的マイノリティなエホバの証人

そんなエホバの証人ですが、アメリカにおいては絶対的なマイノリティです。ペンシルバニアものみの塔協会によると、2021年時点のアメリカのエホバの証人の「パブリッシャー」(正規協会員)は124万2,370人で、人口比0.37%となっています。エホバの証人の記念式典出席者は246万1,094人で、人口比0.74%となっています。

著名なエホバの証人の信者には、プロテニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムズ、同じくプロテニスプレーヤーのヴィーナス・ウィリアムズ、ミュージシャンのプリンス、ロックアーティストのジョージ・ベンソンなどがいます。また、ドワイト・D・アイゼンハワー第34代米国大統領のように、エホバの証人の家庭に生まれて成人して普通のキリスト教に回心した人も少なくないようです。

エホバの証人の印象については、筆者は完全にネガティブには見ていません。しかし、聖書を自分たちの都合に合わせて意訳することは、聖書を信仰の基礎としている多くの人にとって容認できることではないでしょう。エホバの証人のイメージにどことなく暗いものを感じてしまうのには、そうした背景が関係してそうです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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