アメリカの代替肉メーカーの雄、ビヨンド・ミートは今後どうなる?

アメリカの代替肉メーカーでNASDAQ上場のビヨンド・ミート(Beyond Meat)の経営が揺れています。レオナルド・ディカプリオを含む多くのセレブリティが出資したことで話題となり、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったビヨンド・ミートですが、社員によるトラブルや株価の低迷、さらには業績の下方修正などの困難に次々と見舞われています。時代の寵児ともてはやされたビヨンド・ミートは、今後どうなってしまうのでしょうか。

低迷を続ける株価

本記事執筆時点(2022年11月18日)、NASDAQ上場のビヨンド・ミートの株は、1株15.78ドルで取引されています。2019年5月2日に1株25ドルでIPOを果たした後、株価はどんどん値上がりし、7月26日には1株234.90ドルの高値を付けました。その後ジェットコースターのように激しい乱高下を繰り返し、2021年7月2日に150.81ドルの値を付けたのを最後に右肩下がりで値下がりし始めました。今年2022年8月に36.69ドルに若干持ち直したものの、その後再び値を下げ初め、今日に至っています。

ビヨンド・ミートの今後の株価について、あるアナリストは上昇モメンタムが生じるファクターに乏しく、今後も同程度の水準で推移するか、ワーストケースシナリオでは、5ドル程度まで下落する可能性があると予想しています。

頓挫したマクドナルドの「マックプラントバーガー」プロジェクト

困難な状況が続くビヨンド・ミートですが、一大打撃となった最近の出来事がマクドナルドの「マックプラントバーガー」プロジェクトの事実上の頓挫でしょう。マックプラントバーガーは、牛肉の代わりにビヨンド・ミートの植物由来代替肉を使ったハンバーガーで、ビーガン志向が強い消費者を狙ったマクドナルドの「次世代のハンバーガー」でした。当初はアメリカ国内の8つの店舗でパイロット販売が行われ、いずれは全米のすべての店舗での販売が開始される予定でした。その後今年2022年2月までにパイロット販売が600の店舗にまで拡大され、プロジェクトは順調に進んでいるように見られました。

しかし、JPモルガンのアナリスト、ケン・ゴールドマン氏によると、マックプラントバーガーのパイロット販売に参加しているあるフランチャイズオーナーが、マックプラントバーガーの売上が「期待値以下であり」、その内容に「満足していない」とコメントしたそうです。別の関係者の話では、マックプラントバーガーのアメリカ全店舗での販売計画は、事実上頓挫したようです。

インフレの進行で価格も上昇

ビヨンド・ミートの経営困難にさらなる追い打ちをかけているのが、最近のアメリカにおけるインフレの進行です。アメリカの消費者物価指数は今年2022年6月に前年比で9.1%上昇し、過去40年間で最大となりました。その後やや下がったものの、10月も7.7%と高い水準を維持しています。

インフレの進行により、ビヨンド・ミートの代替肉も値上げをせざるをえなくなり、それにより消費者離れが起きました。さらに、値上げにより牛肉や豚肉などの「普通の肉」との価格差がさらに広がり、ビヨンド・ミートの常連客ですらビヨンド・ミートの代替肉から「普通の肉」へ切り替える人が続出したのです。ビヨンド・ミートの代替肉は、インフレが悪化する前から「普通の肉」と比べて価格が割高だったのに、あえて値上げをしたことが決定打となってしまったようです。

ビヨンド・ミートの常連客は、ビヨンド・ミートの代替肉にプレミアムを支払っても良いとするエコフレンンドリーな人が多かったようです。インフレの進行であらゆるモノの価格が上昇してしまい、それどころではなくなってしまったというのが実情でしょう。

社員によるトラブルも

最近のビヨンド・ミートでは、社員によるトラブルも後が絶えません。今年2022年9月には、食肉加工大手タイソンフーズからヘッドハントしたCOOのダグ・ラムジー氏が、アーカンソー州の大学フットボールスタジアムの駐車場で別の観戦客とトラブルになり、その男性の鼻にかみついて食いちぎるという事件を起こしました。ラムジー氏は地元警察に逮捕され、身柄を拘束されました。代替肉メーカーの重役が人間の鼻を食いちぎるという事件は大きなニュースとなり、テレビなどでも大きく報じられました。

事件を重く見たビヨンド・ミートの経営陣は、直ちにラムジー氏に謹慎を命じ、翌10月にはラムジー氏を事実上解雇しました。さらに、ラムジー氏解雇の数日後、今度はチーフ・サプライチェーン・オフィサーのバーニー・アドコック氏が、「何らかの理由により」辞任するという事態を迎えました。なお、アドコック氏も、ラムジー氏と同様に、ビヨンド・ミートがタイソンフーズからヘッドハントした人物です。

わずかの間に経営幹部が二人も退社するという異例の事態を迎えたビヨンド・ミートですが、その先行きはあまり明るくないかも知れません。「普通の肉」から「代替肉」への切り替えを目指していたビヨンド・ミートですが、筆者個人的にはまだまだ頑張って欲しいと思っています。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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