「カトリック?プロテスタント?アメリカの宗教について」という記事で、アメリカは基本的にクリスチャンの国であることを説明しました。アメリカ人の48%がプロテスタントのクリスチャンであり、14%が「福音派プロテスタント」と呼ばれる人達です。コーランを燃やしてアメリカに住むイスラム系住民とトラブルを起こすなど、何かと話題に欠かせない人達ですが、福音派プロテスタントとは一体どういう人達なのでしょうか。
「自由主義神学」に対抗して生まれた福音主義
まず、「福音派プロテスタント」と呼ばれる人達が属している教会・宗派は、カトリックのような統一組織ではありません。カトリック教会は、教皇を頂点に戴いた世界的なピラミッド型の統一組織ですが、「福音派プロテスタント」の教会は、複数の宗派が寄り集まって出来た寄り合い所帯です。正確には、1942年に発足した米国福音同盟(The National Association of Evangelicals, NAE)に加盟している宗派か、その教義・信条に賛同している単立系の教会です。
米国福音同盟は、いわゆる福音主義に基づくキリスト教を信仰する宗派で構成されています。福音主義とは、19世紀中頃に英語圏諸国で生まれた「自由主義神学」に対抗する形で生まれた神学体系です。自由主義神学では、例えば聖書の解釈においても科学的な見方を採用し、天地創造やノアの箱舟などの物語を寓話または神話としています。また、聖書そのものに対して批評的な研究も行い、聖書を絶対の真理とする「聖書無謬説」の立場をとりません。福音主義は、自由主義神学のそうしたリベラルなスタンスに真っ向から対立し、キリスト教信仰の原点回帰をする立場をとっています。
福音派プロテスタントが信じるものとは?
では、福音派プロテスタントは具体的に何を信じているのでしょうか。米国福音同盟の使徒信条が公開されているので、見てみましょう 。
我々は、聖書は霊によって書かれた唯一無謬の権威ある神のことばであると信じる。
我々は、神は唯一であり、父、子、聖霊の三位により永遠に存在すると信じる。
我々は、我らの主イエス・キリストの神格、汚れなき誕生、罪なき一生、すべての奇跡、彼の血からの死による代償と贖い、からだのよみがえり、父なる神の右に座し給うための昇天、力と栄による再来を信じる。
我々は、失われた罪深い人々の救済には、聖霊の再臨が絶対的に必要であると信じる。
我々は、クリスチャンに内在する聖霊の現在の働きが信仰生活を可能にすると信じる。
我々は、救われた者と失われた者の復活を、救われた者には命の復活により、失われた者には地獄へ下ることによる復活を信じる。
我々は、主イエス・キリストを信じるすべての者の霊的な繋がりを信じる。(筆者翻訳)
シンプルですが、福音派プロテスタントが信じるものがわかりやすくまとめられています。つまり、聖書は絶対的な経典であり、そこに書かれていることはすべて真実であること。また、イエス・キリストが唯一の救い主であり、そのすべてを肯定して信じるということです。福音派プロテスタントは、極端なまでの「聖書・キリスト絶対主義者」と言っていいかもしれません。
福音派プロテスタント人口が多い州は?
国土が広いアメリカは州によって人種や宗教などの分布が違っています。福音派プロテスタントの人口分布も州によって様々です。アメリカの調査機関ピューリサーチセンターによると、アメリカで福音派プロテスタント人口が多い州は、テネシー州(52%)、ケンタッキー州(49%)、アラバマ州(49%)、オクラホマ州(47%)、アーカンソー州(46%)、ミシシッピー州(41%)、ウェストバージニア州(39%)、ジョージア州(38%)、ミズーリ州(36%)、ノースカロライナ州(35%)となっています 。いわゆる「バイブル・ベルト」(Bible Belt)と呼ばれる地域で高い割合を示しています。
一方、福音派プロテスタント人口が少ない州は、ユタ州(7%)、マサチューセッツ州(9%)、ニューヨーク州(10%)、バーモント州(11%)、コネチカット州(13%)、ニュージャージー州(13%)、ニューハンプシャー州(13%)、メーン州(14%)、ロードアイランド(14%)、デラウェア州(15%)となっています。モルモン教の本拠地であるユタ州は例外として、アメリカ東海岸の主要州において低い割合を示しています。
人口減も一定の影響力は残す福音派プロテスタント
アメリカの非営利団体「公共宗教リサーチ研究所」が行った調査によると、2020年時点のアメリカの福音派プロテスタントの人口割合は14%で、2006年の24%から大幅に減少しています。特にジェネレーションZ(現在10歳から25歳までの層)と呼ばれる若い世代の減少が深刻で、福音派プロテスタントの人口減少は今後も続く可能性があります。
なお、福音派プロテスタントは伝統的にアメリカ共和党の支持母体として機能してきています。政治的には「中絶反対」「同性婚反対」を掲げ、聖書・キリスト教を土台にした家族中心主義の立場をとっています。2020年の大統領選挙でもトランプ候補の有力な支持層であったとされています。トランプ大統領は、次の2024年の大統領選挙に立候補する可能性が高いですが、福音派プロテスタントの支持をどれだけ取り付けられるかが得票率に大きな影響を与えるでしょう。共和党の大統領候補にとっては、福音派プロテスタントは決して無視できない存在なのです。
執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員、北米担当コンサルタント
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
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