カトリック?プロテスタント?アメリカの宗教について

移民の国アメリカ。古くはイギリスを中心にヨーロッパ諸国から移民が多く移り住み、奴隷制度による黒人の流入やユダヤ人移民の流入などを経て、最近はラテンアメリカやアジア諸国から移民が多く移住しています。まさに人種のるつぼの国アメリカですが、どの宗教がメジャーなのでしょうか。本記事は、アメリカの宗教についてお伝えします。

アメリカは基本的に「クリスチャンの国」

アメリカの非営利団体「公共宗教リサーチ研究所」(The Public Religion Research Institute, PRRI)が行った調査によると 、2020年時点のアメリカ人の宗教で最も割合が多かったのがキリスト教で、全体の70%を占めています。次に多かったのが「どの宗教にも属さない」の23%ですので、何らかの宗教を信じている・宗教に属する人のほとんどがクリスチャンであることになります。

クリスチャンの内訳では、「白人のメインラインのプロテスタント(16%)、「白人の福音派プロテスタント」(14%)、「白人のカトリック」(12%)、「ヒスパニックのカトリック(8%)、「黒人のプロテスタント」(7%)、「ヒスパニックのプロテスタント」(4%)、「その他有色人種のプロテスタント」(4%)となっています。プロテスタントとカトリックの割合では、プロテスタント48%、カトリック22%程度となっています。

福音派のクリスチャンについては別の記事でも書きましたが、聖書を唯一絶対の経典であり、それに書かれていることが絶対の真理であると信じているプロテスタントです。それに対し、メインラインのプロテスタントとは、聖書を必ずしも絶対視せず、比較的リベラルの立場でキリスト教を信仰するプロテスタントです。一口にアメリカのクリスチャンと言っても、宗派によって信条や立場が大きく違います。ましてや、プロテスタントのクリスチャンとカトリックのクリスチャンとでは、信条の基本的な部分において決定的な違いがあります。

キリスト教以外の宗教は?

ところで、アメリカにおいてはキリスト教以外の宗教はどうなっているのでしょうか。上述のPRRIの調査によると、ユダヤ教(1%)、イスラム教(1%)、仏教(1%)、ヒンズー教(0.5%)、その他の宗教(1%)となっています。また、「どの宗教にも属さない」(23%)と答えた人のうち、「無神論者」(3%)、「不可知論者」(3%)となっています。

世界には18億人ものイスラム教徒が存在しますが、アメリカにおいてイスラム教徒は絶対的なマイノリティです。特に、アメリカにおいてはクリスチャン、とりわけ福音派のプロテスタントのクリスチャンとの相性が絶望的に悪く、両者はしばしばトラブルや対立を生じています。

アメリカ・イスラム関係改善協議会(Council on American-Islamic Relations)によると、アメリカ在住のイスラム教徒による人権侵害などの訴えの件数が、2020年から年率9%で増加しているそうです。その中には警察による過剰対応、各種のヘイトクライム、学校でのいじめなどが含まれています。現実的に見るに、アメリカという国はイスラム教徒にとって決して住みやすい国ではないでしょう。

WASPでないと大統領になれない?

ところで、ひと昔まえのアメリカでは、「WASPでないとアメリカ合衆国大統領になれない」という都市伝説のようなものが広く喧伝されていました。WASPとはWhite Anglo-Saxon Protestantの略ですが、「白人のアングロサクソンのプロテスタント」という意味です。確かに、2000年頃までのアメリカでは、歴代大統領はたった一人の例外を除いて全員がWASPでした。その例外がジョン・F・ケネディ大統領で、ケネディ大統領はプロテスタントではなくカトリックでした。ケネディ大統領はカトリックだから暗殺されたなどと言う、たちの悪い噂が流れたりもしました。

なお、この「WASPでないとアメリカ合衆国大統領になれない」という都市伝説は、2009年にバラク・オバマ第44代アメリカ合衆国大統領が誕生したことにより完全に打ち砕かれました。その後の大統領選挙でもモルモン教徒のミット・ロムニー氏やカトリックのポール・ライアン氏が立候補するなどしてノンWASPのトレンドが固定化しています。ちなみに、現職のアメリカ合衆国大統領ジョー・バイデン氏もカトリックです。

アメリカを知るにはキリスト教を学ぼう

以上、実際のデータをもとにアメリカがクリスチャンの国であることをお伝えしました。繰り返しますが、一口にクリスチャンと言っても福音派のプロテスタントもいればメインラインのプロテスタントもいます。また、カトリックもいれば聖公会の信徒もいます。いずれにせよ、アメリカと言う国とそれを構成するアメリカ人を深く理解するには、キリスト教という宗教を学ぶ必要があると思います。彼らが信じているものが何で、なぜ信じているのか。そして、そもそも彼らが経典としている聖書には一体何が書かれているのか。キリスト教を知ることで、アメリカ人のものの考え方や価値観を理解する糸口が得られると思います。

なお、聖書につきましても、一口に聖書といったところで宗派などにより内容に微妙な違いがあります。特に福音派が用いる聖書は記述に相応の「偏り」があるとされています。聖書をお選びいただく際には、可能な限り中立公平な立場で翻訳された聖書をお選びいただくようお勧めいたします。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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