エコノミック・ネクサスとは何か?エコノミック・ネクサスの基本を解説

エコノミック・ネクサスをご存じですか?越境EC市場の拡大、モノのデジタル化、物流インフラの進化などによりモノやサービスのサプライチェーンのボーダーレス化が進み、EC事業者、コンテンツプロバイダー、サービス事業者などを中心に、少なくない数の事業者がエコノミック・ネクサスの影響を受け始めています。本記事では、エコノミック・ネクサスについて解説します。

エコノミック・ネクサスとは?

エコノミック・ネクサス(Economic Nexus)とは、当該州外に居住地を置く法人や個人が当該州内において売上を計上する実質的なビジネスビークルのことです。ネクサスは日本語で「つながり」や「絆」などと訳されますが、当該州外に拠点を置く法人や個人が当該州内に実質的に保有しているとみなされる売上の受け皿と言ってもいいかもしれません。

前の記事で、アメリカでは消費税と州所得税は各州がそれぞれ徴収することを説明しましたが、消費税は基本的に州内に拠点を置く法人や個人に対して課されます。しかし、州外に拠点を置く法人や個人については、州内に事務所や倉庫などの恒久的施設(Permanent Establishment, 略称PE)を有していない限り、消費税が課せられることはありませんでした(州内に恒久的施設を有しており、州内で売上を上げると課せられます)。それに対し、州内に恒久的施設を有していない場合でも、州内で売上を上げたらネクサスと認定するというルールが、2018年以降導入されたのです。

エコノミック・ネクサスの例

なかなか理解しづらいエコノミック・ネクサスですが、例を挙げてみましょう。

まずはEC、イーコマースです。例えばカリフォルニア州に拠点を置く事業者Aが、テキサス州に居住する個人Bに何らかのモノをネットで販売して売上を上げた場合、テキサス州の税務当局は事業者Aのエコノミック・ネクサスがテキサス州内に存在すると見なします。そして、事業者Aはテキサス州に対し、消費税とフランチャイズ税を納める義務が生じます。

また、ワシントン州に拠点を置く動画配信事業者Cのサービスを、ニューヨーク州に居住する個人Dが利用し、会費を支払った場合、ニューヨーク州の税務当局は動画配信事業者Cのエコノミック・ネクサスがニューヨーク州内に存在すると見なします。そして、動画配信事業者Cはニューヨーク州に対し、所得税を納める義務が生じます。

さらに、カリフォルニア州に拠点を置く建設コンサルタント会社Eが、ハワイ州に拠点を置く建設会社Fに、オンラインによるコンサルティングを提供し、その対価として報酬を受け取った場合、ハワイ州の税務当局は、建設コンサルタント会社Eのエコノミック・ネクサスがハワイ州に存在すると見なします。そして、建設コンサルタント会社Eはハワイ州に対し、消費税(ハワイ州の場合はGET)と所得税を納める義務が生じます。

このように、州をまたいで取引される多くのモノやサービスについて、エコノミック・ネクサスが生じる可能性があるのです。

エコノミック・ネクサスと認定される「しきい値」は?

ところで、州をまたいで取引されるすべてのモノやサービスについて、エコノミック・ネクサスが生じるのでしょうか。取引の中には数ドル程度といった少額のものもありますし、また、取引回数が数回程度といったケースもあるでしょう。そこで、各州はエコノミック・ネクサスと認定する基準値である「しきい値」を定めています。

例えばハワイ州は、年間の売上高10万ドル以上か、年間取引件数200件を超えた場合、エコノミック・ネクサスと認定します。そのしきい値を超えた企業は、ハワイ州税務当局に対し、消費税(ハワイ州はGET)と所得税の申告と納税を行う義務が生じます。

テキサス州は、年間の売上高50万ドルを超えた場合にエコノミック・ネクサスと認定します。そのしきい値を超えた企業は、テキサス州税務当局に対し、消費税とフランチャイズ税の申告と納税を行う義務が生じます。なお、テキサス州は、いわゆるIntangible(無形資産)については消費税が非課税なので、コンサルティングなどのサービスの売上については非課税です。

このように、エコノミック・ネクサスの認定基準は各州によりばらばらです。EC事業者などの、多くの州とビジネスをしている企業や個人は注意する必要があります。

エコノミック・ネクサスは日本企業にも関係してくる?

ところで、このエコノミック・ネクサスは、日本に拠点を置く日本企業にも関係してくるのでしょうか。結論を先に書くと、関係してきます。

例えば、日本の越境EC事業者Gがハワイ州在住の消費者にネット通販でモノを販売し、その年間取引件数が200件を超えた場合、ハワイ州は日本の越境EC事業者Gのエコノミック・ネクサスがハワイ州に存在すると見なします。そして、日本の越境EC事業者Gは、ハワイ州に対し、消費税(ハワイ州の場合はGET)と所得税を納める義務が生じます。

また、日本の漫画コンテンツプロバイダーHがハワイ州在住の消費者にネットでデジタルコンテンツを販売した場合も同様です。Hの年間売上高が10万ドルを超えた場合、ハワイ州はHのエコノミック・ネクサスがハワイ州に存在すると見なします。そして、Hはハワイ州に対し、消費税と所得税を納める義務が生じます。

現在、このエコノミック・ネクサスの問題は、日本においてほとんど議論されていないばかりか、その存在そのものがほとんど知られていません。特に越境EC事業者などの、この問題と関係が深い事業者のほとんどが、この問題について知らずに事業を行っており、不法状態を続けています。

今のところ、この問題で各州の税務当局とトラブルになったなどの情報は確認できていませんが、各州当局が本腰を入れると思われる今後は問題になる可能性があります。エコノミック・ネクサスの問題に関係すると思われる企業は、早めの対策を打たれることをおすすめします。

なお、ジェイシーズでは、このエコノミック・ネクサスについての情報を今後も継続して収集・発信してゆく予定です。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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