アメリカの中小企業金融の要、SBAについて

ビジネスを行う上で重要なもののひとつがファイナンス。エクイティとデットのいずれも豊富なファイナンススキームが利用可能なアメリカですが、アメリカの一般的な中小企業の多くは、SBAを通じてファイナンスを行っています。アメリカでのビジネスにはおよそ必要不可欠な存在ともいえるSBAとは、いったいどのような組織で、どのようなローンプログラムを提供しているのでしょうか。

SBAという組織

SBA正式名称The U.S. Small Business Administrationは、日本語では米国中小企業庁と訳されています。SBAは、1953年6月30日にアイゼンハワー大統領の肝いりで設立された連邦政府の行政機関です。SBAのミッションは、「自然災害後のコミュニティの経済的再生を支援し、中小企業の持続可能性と存在を確保することで国の経済を維持し、強化すること」です。SBAのウェブサイトによると、SBAの主な活動領域は、キャピタル(資本)、コントラクト(契約)、カウンセリングの、三つのCすなわち3Csに集約されているとしています。

SBAの三つのCの活動の中で、もっとも大きな比重を持つのがキャピタルすなわち資金の供給です。SBAは、特に中小企業に対する金融機能という重要な役目を果たしています。なお、SBAは日本の中小企業向け政府系金融機関の日本政策金融公庫と比較されるケースが多いですが、SBAは日本政策金融公庫とは違い、ほとんどのケースにおいて自らは資金の貸し手とはなりません。日本政策金融公庫は、借り手の企業に対して直接資金を貸し出しますが、SBAは、SBAのパートナーつまり銀行などの金融機関と企業との間の金銭消費貸借契約の保証を行います。つまり、SBAは金融機関ではなく、日本の信用保証協会に近い組織であると言うべきでしょう。借り手がデフォルト(債務不履行)した場合、SBAは最大85%を貸し手に代位弁済します。

SBAのローンプログラム:7(a)ローン

SBAが提供しているローンプログラムで、もっとも利用されているのが7(a)ローンです。7(a)ローンは最大500万ドル(約6億1000万円)まで利用でき、SBAによると、「短期および長期運転資金」「在庫や売掛金などをベースにしたファイナンス」「家具、機材、資材、原料などの購入」「不動産の購入」「既存建物のリノベーション」「新規ビジネスの立上げおよび既存ビジネスの拡張」「既存借入金のリファイナンス(借り換え)」といった用途に使えるとしています。なお、7(a)ローンの返済期間は最大で10年です。

7(a)ローンの申し込みは、SBAの提携金融機関で行います。ビジネスを立ち上げた直後で取引金融機関がない場合は、SBAのウェブサイトで提携金融機関を紹介してもらえます。また、融資審査は会社と代表者のクレジットスコア、クレジットヒストリー、これまでの実績などをベースに行われ、実際の申し込みに際しては「借入希望者情報フォーム(SBAフォーム1919)」「バックグラウンド・フィナンシャルステートメント(SBAフォーム912およびSBAフォーム413)」「融資申込履歴書」「確定申告書」「履歴書・職務経歴書」などの提出が求められます。

日本政策金融公庫からの借入を希望する場合、決算書や確定申告書などの書類の提出が求められますが、SBAのローンプログラムを利用する際は、それ以上の種類の書類の提出が求められるようです。そして実際の審査にかかる時間ですが、初回の申し込みで60日から90日程度かかるようです。日本政策金融公庫の場合、初回の申し込みでも数週間程度で審査が終わるのに比べて長めのようです。

SBAのローンプログラム:504ローン

504ローンは、不動産、固定資産、設備投資などに特化した長期のローンプログラムです。7(a)ローンと同様最大500万ドル(約6億1000万円)まで利用でき、「建物または土地への投資」「新規固定資産投資」「製造設備などへの長期投資」「土地、道路、駐車場などの改良」などに使えるとしています。一方、「運転資金または在庫費用」「既存借入金のリファイナンスまたは統合」「投機またはレンタル不動産への投資」には使えないとしています。また、504ローンは利用条件として、「アメリカ合衆国およびその領地内で事業を行う営利組織であること」「固定資産の総額が1500万ドル(約18億3000万円)未満であること」「過去二年間の年間経常利益額が500万ドル(約6億1千万円)未満であること」を挙げています。

なお、504ローンの申し込みは、全米各地のCertified Development Company (CDC)を通じて行います。CDCは、地域経済の活性化を目的に組織された、SBAが認定する非営利団体です。7(a)ローンと同様、融資実行の判断はCDCが行います。

504ローンは、端的に言うと既存ビジネスの拡張のために不動産や設備に投資を促すためのローンプログラムです。借入期間も最長25年と長く、利息も4%から7%程度となっています。また、7(a)ローンも504ローンも、借入に際しては代表者の連帯保証と、借入金額が2万5000ドル(約305万円)を超える場合、担保の提供が必要です。

日本企業の現地法人も使える?

ところで、SBAのローンプログラムは、日本企業の現地法人も使えるのでしょうか。「日本企業の現地法人」の定義にもよりますが、現地法人が日本企業の100%子会社である場合、利用は「難しい」と思われます。SBAは、アメリカの中小企業の振興を目的に設立・運営されているからです。

それでも、資本構造を調整したり、代表者にグリーンカードホルダーを配置するなどをすることにより、利用できる道は残されているようです。アメリカでSBAローンプログラムの利用をご検討中の方は、ぜひ弊社へご相談ください。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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