支店?現地法人?アメリカで事業を開始する際の組織形態について

最近、アメリカで事業展開を検討している会社から、アメリカで事業を開始する際の組織形態について質問される機会が増えてきました。ゼロベースでアメリカで事業を立ち上げたいというケースもあれば、すでに日本国内で販売実績がある製品をアメリカで販売したいといったケースもあったりと、うかがうお話は様々ですが、アメリカで事業を開始する際の組織形態についてどのように考えればいいのでしょうか。

組織形態は「駐在員事務所」「支店」「現地法人」の3つ

まず、アメリカで事業を開始する際の組織形態は、「駐在員事務所」「支店」「現地法人」の3つがあります。

「駐在員事務所」(Representative office)は、文字通り日本から送られた駐在員が駐在するための事務所です。別に事務所を構えなくても、駐在員がホテルに長期滞在すればそこが「駐在員事務所」になります。取引先のオフィスの一画を使わせてもらえればそこが「駐在員事務所」になりますし、シェアオフィスを借りればそこが駐在員事務所です。要するに駐在員が活動拠点とする場所が「駐在員事務所」です。

駐在員事務所の場合、登記などの届け出は必要ありません。ただし、駐在員が行える活動は「情報収集」と「連絡業務」に限定されます。契約交渉や契約締結は出来ませんし、マーケティングや販売などの営業行為も一切できません。逆に言うと、市場調査やパートナー探しなどの事業開始前のフェーズにある企業であれば、駐在員事務所が最初の選択肢になるでしょう。

手っ取り早く事業を始めたいなら「支店」

次に「支店」(Branch)ですが、これは日本国内の支店と同様の支店です。東京に本社がある会社が大阪支店や名古屋支店を開設するのと同様に、ニューヨーク支店やロサンゼルス支店を開設するといったイメージです。

支店の最大のメリットは手っ取り早く事業を始められることです。支店を開設する州政府へ登記をすればただちに事業が開始できます。法人設立のように定款作成や取締役会の開催、資本金の振込といった面倒な事務手続きが必要ありません。

しかし、支店の場合、事業主体は支店ではなく、あくまでも日本の本社になります。それゆえ、支店の売上は本社の売上と合算され、日本で課税されることになります。また、支店の売上に対してはアメリカで課税されるので、日本本社に外国税額控除の手続きをする必要が生じます。さらに、日本よりも低い税率でビジネスを展開するメリットが得られません。

支店は、例えば日本の本社がそれなりの利益を出していて、アメリカでの事業立上げコストを本社の利益で相殺したいといった場合や、すでに日本国内で販売実績がある製品をアメリカで販売したいといったケースで(すでに買い手が付いているといった場合は特に)検討すべきでしょう。

自己完結的にビジネスを行うなら「現地法人」

そして、自己完結的にビジネスを行うなら「現地法人」(Subsidiary)がおすすめです。たとえ100%子会社であっても、あくまでも別会社ですので、自由に意思決定ができます。ファイナンスも自由に出来ますし、契約締結も自由に出来ます。キャピタルファイナンスを予定している場合や、売買契約などを頻発に行うといった場合は、現地法人がほぼ唯一の選択肢になるでしょう。

現地法人はまた、訴訟などのリスクヘッジの面でも有利です。アメリカは訴訟大国として知られていますが、仮に巨額の損害賠償請求を起こされた場合、支店の場合は請求先が日本の本社になります。現地法人であれば請求先はあくまでも現地法人ですので、日本の本社へ累が及びません。さらに、現地法人の場合は利益が出た場合、親会社へ配当することも可能です。

日本の本社の事業とまったく違うビジネスをアメリカで開始するケースや、M&Aでバイアウトを計画しているケース、あるいは他社との合併の可能性があるといったケースでも現地法人がおすすめです。

結局のところは「ケースバイケース」

アメリカで事業を開始する際の組織形態については、結局のところは「ケースバイケース」という答えに帰るしかないでしょう。まだ事業成立の見込みがまったく立っていないのにいきなり現地法人を設立したり、すでに買い手が付いているのに駐在員事務所しか開設しない等々、不適切な対応をしないということに帰着するのかもしれません。

いずれにせよ、我々がおすすめしているのは、どのような組織形態をとるにせよ、「リーンスタートアップ」で始めるということです。「リーンスタートアップ」(Lean Startup)とは、必要最小限のリソースを使いながら少しずつビジネスを大きくしてゆくというビジネス手法です。大規模な駐在員事務所の開設に大枚を投じるのではなく、インターネットやソーシャルメディアなどを上手に使ってコストを抑えながらアメリカ市場に参入するのです。

最近のアメリカではリモートワーカーが相当増えていて、ミーティングや営業などをビデオ会話システムやチャットなどで行う人が増えています。日本にいる我々も、そうしたアメリカ人と同様のアプローチをとることは十分可能だと思います。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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