ドアダッシュのIPOに見るアメリカ飲食業界の新トレンド

2020.12.16

IPOを果たしたドアダッシュ

アメリカ現地時間の12月9日水曜日、料理宅配最大手のドアダッシュがニューヨーク証券取引所へ上場、IPOを果たしました。初日の取引から好調で、公開価格102ドルを86%上回る189.51ドルで取引を終えました。ドアダッシュのIPOは今年三番目の大きさで、同社の時価総額は600億ドル(約6兆3千億円)に達しています。なお、ドアダッシュには日本のソフトバンク傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンドが累計で6億8千万ドル(約714億円)投資しており、ドアダッシュの筆頭株主となっています。

ちなみにドアダッシュがIPOした翌日の10日にはエアビーアンドビーがNASDAQに上場、二日続けての大型IPOとなっています。新型コロナウィルスとの闘いに明け暮れた一年でしたが、アメリカの投資家は一年の最後の月に、少し早めのクリスマスプレゼントをもらえたようです。

料理を受け取るダッシャー(配達スタッフ)

ドアダッシュという会社

ところで、ドアダッシュという会社をご存知の方は少ないかもしれません。日本ではUber Eatsが知られてきましたが、アメリカにおけるUber Eatsのライバル企業です。ドアダッシュ(DoorDash)は、2013年にトニー・シュー、スタンリー・タン、アンディ・ファン、エヴァン・ムーアの四人のスタンフォード大学の学生が立ち上げたスタートアップ企業です。設立時の社名はパロアルトデリバリー・ドットコムで、その名が示すとおり料理のデリバリー(宅配)会社です。なお、パロアルトとは、スタンフォード大学が位置している街の名前です。

ドアダッシュのビジネスモデルはシンプルです。ドアダッシュが開発したデリバリー注文プラットフォームを飲食店に提供し、売上から20%程度のトランザクションフィーを受け取る仕組みです。配達はダッシャーと呼ばれるスタッフが行います。Uber Eatsなどと同様に、配達スタッフは原則個人事業主で、ドアダッシュと業務委託契約を締結、配達一件あたり5ドルから8ドル程度の報酬を受け取ります。

ドアダッシュは当初、サンフランシスコ・ベイエリアの飲食店を中心にプラットフォームを提供し、ビジネスを拡大してきました。同社はやがてタコベル、ケンタッキーフライドチキン、マクドナルドなどの大手レストランチェーンと提携し、ビジネスを一気に広げました。そして、2019年4月にはついに業界ナンバーワンのポジションを奪取し、マーケットシェアを35%程度まで広げました。

コロナの巣籠需要がドアダッシュの追い風に

ところで、アメリカではいまだに新型コロナウィルスのパンデミックが収まる気配を見せていませんが、コロナによる巣籠需要の増加がドアダッシュのビジネスにとっての追い風になっています。ある調査によると、アメリカでコロナのパンデミックが始まった今年2月の翌月3月、ドアダッシュの月次売上が前月から24%増加、以後今日までに持続的に増加しているそうです。

カリフォルニア州やニューヨーク州などの人口が多い州では、最近再び飲食店に営業制限が課せられ、店内でのサービス提供ができなくなっています。その一方でデリバリー需要は拡大しており、ドアダッシュなどの宅配業者が需要に対応しているのです。

ドアダッシュのゴーストキッチン

ゴーストキッチンビジネスにも参入

ところで、ドアダッシュは昨年初めて自前のゴーストキッチンを立上げ、ゴーストキッチンビジネスに参入しています。ゴーストキッチンとは、前に「アメリカやインドでブレーク中のクラウドキッチンとは? 」という記事でご紹介したクラウドキッチンの別名ですが、飲食店経営者やシェフにキッチンスペースを貸し出し、家賃を徴収するビジネスです。飲食店経営者やシェフは、お店を開設するための設備投資を行う必要がなく、手ぶらでレストランビジネスを始められるので、現在アメリカで非常にブレークしています。ドアダッシュは、ゴーストキッチンビジネスに参入した、アメリカ初の料理宅配業者となったそうです。

なお、Uber創業者で前CEOのトラビス・カラニック氏もロサンゼルスに会社を設立、ゴーストキッチンビジネスに参入しています。カラニック氏が立ち上げた「クラウドキッチンズ」は、これまでに1億3千万ドル(約136億5千万円)の資金を投じ、全米の40か所にゴーストキッチンを開設しています。カラニック氏はさらに、サウジアラビアの公立ファンドから4億ドル(約420億円)の資金を調達、ゴーストキッチンにさらに投資するとしています。

コロナに翻弄された一年でしたが、来年のアメリカの飲食業においては、デリバリーとゴーストキッチンが大きなキーワードになりそうです。デリバリーとゴーストキッチンが、コロナで傷ついたアメリカの飲食業を立て直す、二大ドライバーとなってくれることを祈るばかりです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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