アメリカで注目のスタートアップ企業・EnsoData

多くのアメリカ人が苦しむ睡眠時無呼吸症候群

寝ている時に呼吸が止まる、睡眠時無呼吸症候群。アメリカ睡眠医学アカデミーの調査によると、アメリカには睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)に苦しむ人が2,940万人も存在しているそうです。睡眠時無呼吸症候群は進行性で、放っておくと重篤化し、最悪のケースでは死に至ることもある大変恐ろしい病気です。

一方で、睡眠時無呼吸症候群の診断は難しく、専門の医師が十分な時間をかけて患者をモニタリングし、診断する必要があります。一般的には、専門のガイドラインに沿って患者の状態を観察し、睡眠ポリグラフ検査などを行って診断を下します。非常に労働集約的で、長い時間を要するプロセスです。

ウィスコンシン州マディソンに拠点を置くスタートアップ企業のEnsoDataが開発したソフトウェアEnsoSleepは、医師に代わってAIが睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害を診断するもプラットフォームです。マシンラーニングを使い、迅速かつ正確に睡眠障害の診断を下す事が可能です。

患者に取り付けたセンサーでデータを取得

EnsoSleepは患者に取り付けた各種のセンサーで脳波、脈、血液中の酸素濃度、呼吸パターンなどのデータを取得します。取得されたデータをEnsoDataが蓄積した過去の患者データと比較し、睡眠障害の有無を判定します。EnsoDataは、全米各地にある提携クリニックをオンラインでネットワーク化し、それぞれのクリニックから患者のデータを取得しています。なお、患者からデータを取得後、診断にかかる時間はわずか5分程度です。医師は、これまで数時間かかっていた診断時間を大幅に削減できます。

アメリカの睡眠障害クリニックが置かれている現状について、EnsoDataのクリス・フェルナンデスCEOは、「多くの睡眠障害クリニックは現在、連日行われる患者のモニタリング、専門医の不足、医療保険会社からの診療報酬額引き下げのプレッシャーに悩んでいます。EnsoSleepは睡眠障害クリニックのそうした問題を解決し、他の睡眠障害クリニックからの差別化を実現させます」とコメントしている。

なお、EnsoDataによると、EnsoSleepを導入する事で、一般的な睡眠障害クリニックが毎月行っているデータアナリシスの時間を最大100時間程度削減できるとしています。EnsoSleepを使っているというフロリダの睡眠障害クリニックも、EnsoSleepを導入した事で医師の通常勤務時間の25%を削減し、日々の生産性を大きく高めたと評価しています。

睡眠障害以外の病気にも対応へ

2017年4月にFDA(アメリカ食品医薬品局)からの承認を受けて以来、現在までにカリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州などの400の睡眠障害専門クリニックがEnsoSleepを利用しています。EnsoDataはEnsoSleepのユーザーをさらに増やし、取得するデータ量を拡大してEnsoSleepを進化させたいとしています。

また、EnsoDataでは睡眠障害で培った患者モニタリングの仕組みを睡眠障害以外の疾病にも使う事も検討しています。具体的には、ERなどの救急医療の現場や、手術後の患者モニタリングの現場などです。いずれも長時間患者を観察する必要がある現場です。

「我々のコアテクノロジーは医療の様々な現場で応用可能です。特に患者を長時間モニタリングする必要がある現場や、膨大なデータの分析が必要な現場です。多くの医療現場では、各種の作業は未だに人間の手で行われています。テクノロジーを使って人間をそのような医療現場から解放する事で、医療従事者が患者さんと接する時間を増やし、さらには医療全体のコストを下げる事も可能になります。また、なによりもより多くの人へ医療へのアクセスを提供する事が可能になります」と、フェルナンデスCEOはコメントしています。

200万ドルのシードファイナンスも

なおEnsoDataは、これまでに複数のベンチャーキャピタルから総額で200万ドル(約2億1千万円)の資金をシードファイナンスで調達しています。アクセラレーターのYコンビネーターの卒業生でもあるEnsoDataのビジネスは、シードフェーズから評価されていることは間違いありません。

EnsoDataに投資したベンチャーキャピタルの担当者も、EnsoDataのビジネスについて、「多くの医師達が医療におけるAIブームを目撃してきましたが、EnsoDataは医療におけるAI活用の明確で現実的な実例です。EnsoDataのテクノロジーが他の医療分野でも活用され、医師達を労働集約な現場から解放する事を期待しています」と、同社のビジネスモデルを高く評価しています。

EnsoDataのビジネスモデルはAI、ウェアラブルデバイス、IoT、クラウドコンピューティングなどの新技術をフル活用して実現したもので、時代の申し子のようなヘルスケアテックです。同社のビジネスは今後、アメリカのみならず日本を含む海外にも広がることは間違いないでしょう。ヘルスケアテックの雄と呼ぶべき同社が今後どう展開してゆくのか、大いに期待するところです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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