アメリカ西海岸の山火事について
猛威を振るう山火事
アメリカ西海岸で山火事が猛威を振るっています。アメリカ西海岸では毎年山火事が頻発しますが、特に今年は連日の猛暑と乾燥した空気、さらに連日続いた強風が重なり、山火事にとっての「パーフェクトストーム」状態が発生しています。カリフォルニア州では州内の35か所で山火事が発生、多くの消防士が消火にあたるものの、消火率は全体のわずか8%にとどまっています。
近隣のオレゴン州でも山火事が相次ぎ、オレゴン州だけで今週一週間で10名もの人が命を失っています。カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の山火事による焼失面積はニュージャージー州全体の面積に匹敵し、同3州での累計死者数は33名に達し、さらに多くの人が行方不明となっています。
オレゴン州アッシュランドに住む筆者の友人の一人も、危うく山火事の難に遭うところでした。アッシュランド市内3200エーカーを焼いた山火事は、彼の自宅から約十ブロック先の住宅街を焼きましたが、彼の自宅は奇跡的に助かったそうです。山火事が近隣に迫る様子を撮影してフェイスブックに投稿していた彼は、山火事の恐怖を「興奮と恐ろしさが入り混じった感覚」と表現しています。
山火事が頻発する原因
ところで、アメリカ西海岸、特にカリフォルニア州では、なぜ山火事がこれほど頻発するのでしょうか。
多くの専門家が指摘しているのが、カリフォルニア州特有の天気です。カリフォルニア州は比較的温暖な天気で知られていますが、全土で共通しているのは乾燥した空気です。乾燥した空気は森林の水分を蒸発させ、雷などによる自然発火を生じやすくさせます。実際、カリフォルニア州で発生する山火事の多くは雷などによる自然発火で発生しています。
さらに、近年の地球温暖化を山火事悪化の原因とする声もあります。ニューヨークタイムズは、カリフォルニア州の歴代10大山火事のうちの9つは過去十年間に発生しており、観測史上最も気温が高かった10年と一致していると報じています。観測史上最も気温が高かった2016年には、13万エーカー(約1億6千万坪)を焼いた史上最大規模のモントレー山火事が発生しており、観測史上2番目に高い気温を記録した2018年には、史上二番目の規模のベンチュラ郡山火事が発生しています。今年の今日時点までの焼失面積は、1970年代の一年間の平均焼失面積の8倍以上にも達しており、単なる偶然の一致ではないとする声が少なくありません。
また、サンタアナ・ウィンドと呼ばれるカリフォルニア特有の季節風も山火事頻発の理由とされています。モハベ砂漠からカリフォルニア中央の山麓地帯を越えて上から下へ吹き降ろす季節風は、小規模な山火事をふいごのようにあおり、たちまち大規模な山火事にしてしまいます。多くの専門家は、サンタアナ・ウィンドの発生を防ぐことが出来ない以上、カリフォルニア州での山火事を完全に防ぐのは難しいとしています。
山火事が大統領選挙の争点に
民主党の大統領候補ジョー・バイデン氏は、西海岸の山火事の頻発化、大規模化の原因を地球温暖化を含む近年の気候変動であるとし、政府に対策を講じるよう求めています。同様の主張は同じく民主党選出のニューソン・カリフォルニア州知事もしていて、2020年に発生したカリフォルニア州の山火事の件数は7002件で、2019年の一年間に発生した山火事の4292件をすでに大きく上回っているとしています。ニューソン知事は、山火事の原因が気候変動にあるのは「間違いない」と断定し、「(気候変動をめぐる議論は)すでに結論が出ている。これは気候上の非常事態だ。これが現実で、目の前で実際に起きていることなのだ」と発言しています。
一方、気候変動説否定派のトランプ大統領は、山火事の原因を気候変動とせず、「貧弱な森林管理」を原因としています。トランプ大統領は、カリフォルニア州などの当局者が倒木などを撤去せずに放置するなどしており、「山火事が発生しやすい状況を作り出している」と主張しています。「私は、彼ら(カリフォルニア州などの当局者)に3年間も言い続けてきた。しかし彼らは(森林をきれいに管理しろという)私の話を聞かなかった。「環境のせいだ」「環境のせいだ」というばかりで、今年もまた山火事に見舞われてしまった」とも発言しています。
今や大統領選挙の争点にもなってしまった山火事論争ですが、今もカリフォルニアに多くの友人・知人を有する者としては、カリフォルニアの山火事が頻発化、大規模化している現実を直視し、対応を強化していただくようお願いするほかありません。太平洋を渡った地より、かの地の安寧を祈っている次第です。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。